第368話 おいしい牛乳、おいしいハチミツ
巨大な雄牛は、のんびりと草を食んでいる。
その後を子牛(サイズは全然子牛じゃないけど)たちがついていく。雌牛は日当たりのいいところで横になって寝ている。そう、横になって。
どんだけ、ここが安全なのか、ってことではある。
山裾のかなり広い範囲を放牧地にするために、木を綺麗に伐採した。日当たりバッチリなのと、あちこちで精霊たちが飛び交っているせいか、草の成長が早そう。
雄牛たちが食べまくっても、早々、草が無くなることはなさそうだ。
最初は新しい環境が落ち着かないのか、なかなかお乳が出なかった雌牛たちだったけれど、今日、ようやく私の元にもおこぼれが回ってくるようになった。
一緒に連れてきていた子牛は、かなり大きかったのに、まだまだ母親のお乳を飲むようで、私の手元に来たのは、1リットルのガラス瓶(私提供)1本分だ。
村人たち全員に、というのは、かなり無理があるようだ。
そもそも、牛乳を飲みたがってるのは私なので、極端な話、私の分だけ毎日もらえれば十分ではある。同じように牛乳を飲む仲間が増えれば、それはそれで嬉しいんだけど。
ちなみに、味は濃厚で甘味が強い感じ。あっちの牛乳に慣れているせいかな、と思ったのだけれど。
「サツキ様、ここの草って、何か違うの?」
厩舎の脇に、前に刈った草(自動収納分)を山積みしているところに、マカレナが声をかけてきた。
前は『廃棄』してしまっていたけど、KPが大量に自動加算されるようになっているので、牛の餌にしてもらってる。
「うん? なんで?」
「……あのね、牛のお乳の味が、なんか違うの」
マカレナ曰く、前にいた牧場の時よりも甘味が強いんだとか。
餌のせいなのか、水のせいなのか。
あるいは他の環境のせいなのか。
草だけが原因ではないとは思うけど。
「私は美味しいから、好きだよ?」
そう答えると、嬉しそうに微笑むマカレナ。
ハノエさんたちに綺麗にしてもらったマカレナとブルノ。汚れてた時には気付かなかったけれど、彼女たちはこの辺りの人たちと肌の色が違う。日焼けとも違う、小麦色の肌に、目鼻立ちがくっきりとした、例えるならばアラブっぽい感じ。大人になったら、絶対、美男美女に育つに違いない!
「ハチミツを採ってきたから、ホットミルクでも作ろうか」
「ハチミツ……」
マカレナの目がキラキラしだした。
「ゲハさんたちもいかがです?」
ちょうど村の方から戻ってきたゲハさんに声をかける。村から食料を運んできたようで、毛梳きチームのジジババも一緒だ。
採ったばかりのハチミツに、搾りたての牛乳。どっちもそんなに量がないので、みんなの手元のコップには、あまりたくさんは分けられなかった。
「……甘っ!」
「ほぉ」
「旨いですなぁ」
うん、美味しい。これは、毎日、飲みたいかも。私の『収納』だったら、飲み切れない分は保存できる。貯まったら、
結果、ゲハさんたちに毎日配達してもらえることになった。
「そういえば、村の方の養蜂箱って、どうですか?」
「ああ、そうでした。そろそろ集めようなどと言っておりましたよ……ドワーフたちが」
「……は? なんでドワーフ?」
首を捻って聞いてみると、ゲハさんは苦笑い。
「ドワーフたちは、ミードを作りたいそうで」
「ミード?」
「ハチミツ酒ですよ」
……ドワーフたちよ、そんなに酒が飲みたいのか!





