第366話 養蜂箱チェック(1)
すっかり周囲の空気は春だ。ポカポカ陽気の中、私は桜並木を歩いている。
この前、精霊たちが教えてくれた、桜並木に設置した養蜂箱の様子を見にきたのだ。
今日のお供は、ガズゥだけ。テオとマルは、ブルノと一緒に牛の世話をしているらしい。
一応、間伐はしているので、比較的明るい山の中。
すでに桜は散ってしまって、辺りには目だった花は見当たらないけれど、養蜂箱の周りを、大きなハチたちが元気に飛んでいる。他の花を探しに、どこか遠いところまで飛んで行っているのかもしれない。
「さてと、中を見せてもらうよ~?」
『ほらほら、どいて~』
『さつきのじゃま、しないの~』
風の精霊たちの声に、ハチたちは素直に離れていく。
ガズゥには精霊の声は聞こえていないし、見えていないので、ハチが私のお言葉を察しているように見えるだろうなぁ。
あまり勘違いしないでほしいところだけれど、今更かもしれない。
ちなみに、今の私は、いつも通りの普段着(今日はグレイのパーカーにジーパン)で、折りたたみのバケツに、軍手という状態。ガズゥにいたっては、素手だ。
精霊たちがいなかったら、こんな無防備な格好の私やガズゥが、養蜂箱なんか触れられるわけがないので、彼らに感謝だ。
ハチミツでいっぱいになってる重い箱を、軽々と持ち上げるガズゥ。
「おお~。確かに大きくなっちゃってるね」
「すごいですね!」
重箱のように重ねた4つの箱の一番下まで育ってて、もうすぐ床についてしまう。
ガズゥの目はキラキラと輝いている。前に食べたハチミツの味を思い出しているに違いない。
私は慎重にハチの巣を確認して、上から2段目までが蜜でいっぱいになっていたので、そこまでを譲ってもらうことにした。
折りたたみバケツの中は、すでにハチの巣でいっぱいになっている。
「この様子だと、他のところもそこそこ育ってそうだね」
『みにいく?』
『いく? いく?』
頭の中に、桜並木以外の、養蜂箱を設置した場所を思い返す。残りは4か所。
・果樹園
・トンネル側の道
・立ち枯れのハーブ園
・ジャスミンの柵(山裾。桜並木の出入り口とドッグランの間)
中でもホームセンターで買ってきて作った物(サイズが小さい物)が、トンネル側、バラが植えてあるあたりの養蜂箱で、今いる桜並木から見て、ログハウスを挟んで反対側にある。
果樹園の養蜂箱も近いけれど、こっちは道を降りていくことになるので、先にトンネル側の方の様子を見た方がよさそうだ。
結果として、トンネル側の養蜂箱は……残念ながら、空っぽになっていた。
養蜂箱を持ち上げたガズゥが、あまりの軽さにビックリ。
「軽っ!?」
「え、なんで?」
一応、2段目までは巣を作っていた形跡は残ってはいる。
環境が悪かったのか。他にいい巣が作れる場所があったのか。
それとも、病気か何かだったのか。
天敵のゴモクハチが、山の中にきたのだろうか。
「……もしかして、小さくて入れなかった、なんてことはないよね」
ハチの一生は短いサイクルで回ってると聞いたことがある。
もしかして、最初は小さいサイズだった子たちが、ここで育っているうちにサイズが大きくなりすぎて、箱の中に入れなくなったなんてことは……。
「ないと言い切れないのが、悔しい」
仕方がないので、一旦、ここの養蜂箱は撤収して、後で新しい大きいサイズのを設置しなおすことにした。
まだ、バラの花は咲いていないけど、小さな蕾は、ちらほら見える。
今から用意して、ハチの巣ができるかわからないけれど、早いところ、用意しよう、と強く思ったのであった。





