第365話 牛とホワイトウルフ
牛たちは、村の南側の出入り口を出て、畑を抜け、うちの山(フタコブラクダの頭の方)の麓に放牧されることになった。場所としては、桜並木の出口の手前あたり。ちなみに、その先にはホワイトウルフたちのドッグランがある。
一応、ちゃんと厩舎も作ったし、子牛たちが逃げ出さないように、高めの柵で囲いも作った。そして厩舎の隣には、村人たちのモノより少し小さいログハウスも作った。こっちは、牛の世話をするマカレナとブルノが住む家だ。
最初、村に入ったマカレナたちは、村人のほとんどが獣人だったことに驚き、固まった。今まで生きてきて、獣人を見たのが初めてだったらしい。
一方で、ハノエさんたちママ軍団は、マカレナたちの格好を見た途端、猛烈な世話焼きが発動。村に若い女の子がいないわけではないけれど、今はマカレナくらいの子供の女の子がいないせいもあって、大盛り上がりになってしまった。
その間、ブルノはガズゥたち子供たちが構い倒していたお陰もあって、すぐに馴染めていたので、ホッとした。
そんな小さな彼女たちを、石塀で囲まれた村の中ではなく、牛の放牧地の中に住まわせるのは、私を含め、大人たちが心配したのは言うまでもない。
囲いがちゃんと結界の機能をしていても、子供だけで生活する、というのは、また別の話だ。
「だったら、わしの家も移してもらえんでしょうか」
そう言いだしたのはゲハさん。
村から放牧地まで、微妙に距離がある。歩けなくはないけれど、牛の世話を考えたら、近くにいた方がいい。
ということで、マカレナたちの家の隣に、ゲハさんも家ごとお引越し。
どんどん建物や柵が出来ていき、最後にゲハさんの家がドンッと目の前に現れた時のマカレナたちが唖然としてた様子は、ちょっと笑ってしまった。
そして、牛とホワイトウルフの邂逅は、なかなかに神秘的だった。
ゲハさんと子供たちと一緒に、牛たちを放牧地へと連れていくと、ホワイトウルフたちが集まってきた。その先頭にいるのは、当然、ビャクヤ。
ゲハさんは慣れているけれど、雄牛以外は、恐くて及び腰。マカレナとブルノも雄牛の体に張り付いている。
ビャクヤは私の目の前で止まり、お座り。お座りしても、見上げる大きさのビャクヤは、雄牛よりもデカい。
『五月様、これらは』
「村で新しく飼うことになったの。あと、この子たちも新しい住人なの。気を付けてあげてくれる?」
『承知しました』
ぺこりと頭を下げるビャクヤに、ホワイトウルフたちも真似をする。
ビャクヤは雄牛の方へと目を向けると、のそりと立ち上がり、厳かに言葉を発した。
『私は五月様の従魔のビャクヤという。お前たちが、五月様を裏切らぬ限り、我らがお前たちを守ってやろう』
裏切るって、ちょっと言い方とかがあるでしょうに。
私が苦笑いを浮かべて見ていると、雄牛が堂々とビャクヤの前まで進んできた。
――まさか、喧嘩しないよね?
内心焦っていると、あの大きな身体の雄牛が、膝を折って頭を下げた。
2体が並ぶと、なかなか壮観。雄牛の後ろに隠れていた雌牛たちも、その後ろで頭を下げていた。
ホワイトウルフたちも気にかけてくれるなら、大丈夫だろう。
ゲハさんが、ホワイトウルフたちの背中を撫でている姿に、マカレナたちの目に尊敬の色が浮かんだのは言うまでもない。





