第361話 桜並木を伸ばそう
出来上がった桜の塩漬け。
ガズゥたちの家にジッパー付きのビニール袋を持っていくと、ガズゥたちよりも、ハノエさんたちママが大喜びされた。
どうも桜茶の味よりも、香りがいいらしい。私はふんわりとしか感じ取れないそれが、獣人たちにはもっと違って感じられるのだろうか。
そういえば、ネドリだけれど。
結局、ドワーフたちの家族を迎えに行って、そのまましばらくあっちにいると言っていたのだけれど、なぜかエイデンによって連れ帰られていた。
元々、ジェアーノ王国でのエイデンの作業の手伝いをしたら、そのまま、ジェアーノ王国に残るつもりだったらしい(若者たちはドワーフの国にそのまま残っているらしい)。
しかし、エイデンがハノエさんに連れ戻すように頼まれたらしい。
いい加減にしろ、と。村長は誰だ、と。
まぁ、仕方がないだろうね。
今日は黒ポットで種から育てた桜の苗を、エイデンの山裾の桜並木の先に植えかえに向かう。
スーパーカブに乗って山の中をのんびり走る。風が気持ちいい。
思わず、ふんふんと鼻歌を歌ってしまう。
『さつき、さつき』
そんな私の隣を、風の精霊たちが何人かが並ぶように飛んでいる。
「うん? どうしたの?」
『ミツバチがね』
『ハチミツがいっぱいだって』
『すがおおきくなったって』
あらら。
話の様子だと、5か所の養蜂箱のうち、桜並木に設置したのがいっぱいになってしまっているらしい。
「わかった。後で様子を見に行くね」
『はーい』
心の中で、桜並木の養蜂箱を確認すること、とメモをする。
ついでに、他の養蜂箱もチェックしておかないといけないだろう。
スーパーカブで村の中に入る。
すでに見慣れている獣人たちは、片手をあげて挨拶をしてくるけれど、村に来たばかりのドワーフたちは驚きで固まっている。
バイクのエンジンの音を聞きなれなければ、驚くのも無理はないか。
でも、そこは慣れてもらうしかない。
山裾のドワーフたちの家々の前の道を走っていくと、向かい側に建っている家から、魔道具職人見習いのモリーナさんが飛び出してきた。
「な、な、なんの音!?」
後ろからモリーナさんの声が聞こえたけれど、とりあえずスルー。
桜並木の一番端までやってきて、スーパーカブを止める。
すでに桜の花はなくなって、緑の葉が生え始めている。そういえば、桜の葉も塩漬けにしたのがあったなぁ、と思い出す。でも、桜餅に使うくらいしか覚えていなかったので、あえて、それに手を出すつもりはない。
「それよりも、植えないとね」
ここまでの桜並木は、結界などの力はない『ヒロゲルクン』で育った桜。
そして、ここから先は、種から育てたので、しっかり結界機能付きだ。
「あって困るわけでもないしね」
私はタブレットを手にすると、『ヒロゲルクン』で地面に苗を植えられるくらいの穴をあけてみる。そして『収納』から、1本の桜の苗木を取り出して、そのまま植えた。
『これ、そだてる?』
『おおきくする?』
「いやいや、このままでお願い……あ、しいて言えば、水の精霊さんたち、お水をお願い?」
『まかせろっ!』
『えー、いいなー』
精霊たちのご機嫌を伺いながら、桜の苗を植える私。
「サ、サツキ様ぁぁぁぁぁっ!」
……なんか、モリーナさんの叫び声が聞こえた気がする。





