第359話 桜茶を飲みながら
暖かい日差しを浴びながら、ログハウスの前の桜を愛でつつ、のんびり桜茶を嗜んでいる私。
すでに満開の時期は過ぎて、ハラハラと花びらが散ってますけどね。
その上、緑の葉も見え始めてますけどね。
ほーっ、とため息をつきながら、先日、ラインハルトくんたちが、母国、ジェアーノ王国へと帰国した時のことを思い返す。
エイデンがドワーフたちの家族を連れてきて早々、早めにジェアーノ王国に戻った方がよさそうだ、という話になったのだ。
なんでも、帝国側が本格的に侵攻を始めそうだ、ということで、桜の木を早く植えた方がいいだろう、ということになったのだ。
そのためには当然、守るべき対象でもあるラインハルトくんも帰国しなければならず、ガズゥたちとは、涙、涙の別れになってしまった。
その中でガズゥは、「冒険者になったら、会いに行くからな」と約束をしていた。
きっと彼のことだ。有言実行に違いない。
ラインハルトくんたちは、少し大きめな箱馬車に乗って、エイデンに運ばれていった。
この箱馬車は、元はグルターレ商会の持ち物だった物。
最速でジェアーノ王国に戻るには、エイデンに運んで貰わなければならず、さすがにラインハルトくんたち、普通の人間にエイデンの背中での移動は無理。かといって、村にあるのは屋根のない古い荷馬車。
そこで、まだ村に残っていたグルターレ商会に話をもっていったら、モリーナさんのこともあるので、と、商会の箱馬車を格安で譲ってもらうことになったのだ。
何せ、グルターレ商会の箱馬車、元々、商品を運ぶために専用で作られた物だそうで、見た目以上に物が入るのだとか。
どんだけ? と思って中を覗かせてもらったら、車体の半分くらいが普通の座席、その奥にドアがあり、そのドアの先が……車体と同じくらいの大きさのスペースがあったのだ。
外から見たら、そんな大きさはないのに……異世界スゲー、と思った。
むしろ、あんなに格安でいいのか、と、逆に不安になったので、ユグドラシルの葉をいつもより多めに渡した。その時、ニッコリ笑ったカスティロスさんの顔は、忘れられない(ブルルッ)。
ラインハルトくんたちの帰国のお土産にと、桜の苗木の他に、はっさくの皮のピールを瓶詰にしたのを渡しておいた。最初、ピールにするのを思いつかなかったせいで、皮は普通に捨ててしまっていたので、量はそれほど多くは作れなかった。
まぁ、ちょっとした手土産程度になればいいかな、というところだろう。
目ざといエイデンは自分の分も、と言って、一瓶トッていったけど、あちこち行ってもらってるお駄賃だとしたら、安いものだろう(いや、安すぎるか)。
他にも、久々の帰国ということもあったので、洋服を新たに買ってきてあげた。
と言っても、あちらに貴族の坊ちゃんが着るような服はないし、動きやすい服の方がいいだろうということで、ジーンズにロングTシャツ、グレーのパーカー(デフォルメされた狼のワッペン付き)をプレゼントした。
……なんでも似合っちゃうのは、西洋風なお顔立ちのせいですかね。
それと、ラインハルトくん用に、ガズゥたちとお揃いのミサンガを作ってあげた。色々な効能? がついているっぽいけど、それは見ないことにした。
……悪いモノじゃないんだしね(遠い目)。
箱馬車に乗り込んでいく、笑顔のエメさんとアルフさんを見送った時、出会った当初の頃を思い出した。二人とも疲れ果て、だいぶ老けて見えていたけれど、今では実年齢よりもかなり若く見える。帰国した時、色々、言われそうなくらい。
……いろんな意味で、無事を祈ったのは、言うまでもない。





