第358話 花見の宴と、別れの予感
桜並木の中、ブルーシートを敷いて、そこに座ってお花見中。
明るい陽射しの中、あっちこっちで賑やかな声があがる。
特にドワーフたちは、家族が来るまで我慢していたお酒を、どんどん消費していっている。足りるんだろうか、と思うくらい、ドワーフたちのお酒を飲むペースは止まらない。
せっかくの盛り上がりに水をささないために、グルターレ商会の商品で残っていたワインなどのお酒を買い付けた私。
カスティロスさんが、いい笑顔だったのが、若干気に入らないけれど。
――今度、ヘンリックさんたちには何か作ってもらおう。
心にメモをすることを忘れない。
「五月、これ、この肉、旨いぞ」
ニコニコ笑ったエイデンが、たっぷりの焼肉のタレ(スーパーで買ったヤツ)のかかった厚めに切られた肉を、木の皿に山盛りにして持ってくる。
その肉の提供者は、エイデンだったか、ビャクヤだったか。
今回の花見では、私の『収納』の中に死蔵されていた肉類を放出したのだ。なんだかんだと貢がれて、ありがたく受け取るも、一人じゃ食べきれないだけの肉、肉、肉。
こうして宴でもないと、消費されない。
『売却』や『廃棄』してもよかったのだけれど、いつか食べるんじゃないか、と思うと、食べられるモノは手放すのは躊躇してしまうのは、貧乏性だろうか。
結果として、こうして食べる機会があったのだからいいのだろう。
しかし、今の私はガズゥたちお子様たちとともに、焼きそばを食べている。モリモリ食べているガズゥたちは、口の周りがソースだらけだ。
焼きそば自体、獣人たちとの食事をした時に出して人気があったので、スーパーで3食入り1袋98円(税抜)を山ほど買いこんでおいていた物だ。
焼きそばを焼いている大きな鉄板は、ヘンリックさん製。獣人のおじさんが、手際よく焼いている姿は、まるで屋台のおじさんだ。
安くても、皆で外で食べてるせいか、旨く感じるから不思議だ。
「盛りすぎだよ」
差し出された皿を受け取りつつも、文句を言ってしまう。
絶対、残すわ。この量は。
「食べきれなかったら、俺が食べるから」
私の隣にいたガズゥがエイデンのために、一人分の席をあける。
空いた手でガズゥの頭を撫でてから、当然のように座るエイデン。私も、それを嫌な感じには思わないくらいには、慣れたようだ。
反対側に並んで座っていたのはテオとマルにラインハルトくん。
「エイデンさま、エイデンさま、ハルトのおとうさんとおかあさんは、げんきだった?」
「うん?」
「エイデンさまは、ハルトのいえにいってきたんでしょ?」
テオとマルが手には串焼きの肉を持ったまま、目をキラキラしながら聞いてくる。
「ああ、行ってきたぞ。ラインハルトには、もう父親からの手紙を渡してあるぞ」
「そうなの?」
「そうなの?」
エイデンとラインハルトくん、双方に問いかける二人が可愛すぎる。
「うん、もらった」
よっぽど嬉しかったんだろう。ポッと頬を染めているラインハルトくんに、思わずニヨニヨしてしまう。
「もう少ししたら会えるから、頑張れって」
「おう~」
「おう!」
テオとマルは嬉しそうだけれど、それって、もうすぐ彼らが離れ離れになるってこと。
ガズゥだけはそれに気付いているのか、少し寂しそうな笑顔を浮かべていた。
 





