第356話 桜と精霊
ガズゥたちと一緒に村の外、山裾の桜並木の様子を見に来た。
私たち以外も、村人たちやエルフたちまでぞろぞろとついてきている。こちらには似たような木がないのか、彼らも桜の花が咲いているところを知らないようで、興味津々のようだ。
着いてみれば、チラホラとピンク色の小さな花が咲き始めているのがわかる。
今日はちょっと温かかったからだろうか。ここが咲きだしたってことは、ログハウスの方の桜はもう少し咲いているかもしれない。
この感じだと、すぐに満開になりそうな予感。なにせ、土の精霊たちが……桜の根元で……まるで盆踊りのように、踊ってる……ああ、なんか、端の方から段々咲いてってるね(遠い目)。
この風景が見えているのは私だけ……かと思いきや、エルフたちの何人かの視線の先は木の根元。思いっきり目を見開いている。
カスティロスさんも見えてるのか、視線が根本にくぎ付けだ。
「……ご機嫌だね」
思わず呟いた私に気付いた精霊たちが、わらわらと集まってきた。
『まんかいにする?』
『いつでも、おっけーよ?』
『ぱっとやるぞ?』
『ぶわーっとさくぞ?』
精霊たちのヤル気に押されそうになるけれど。
「いやいや、エイデンたちが帰ってくるまで待とうか」
できるなら、エイデンたちがハンネスさんやアルブレヒトさんたちの家族であるドワーフたちを連れ帰ったところで、花見も兼ねての宴を、と思っているのだ。
先日、ドワーフたちに果樹用の棚の報酬のお酒を渡した時に、涎を垂らさんばかりの彼らが、我慢したくらいなのだ。そこは待ってあげたい。
これに、モリーナさん(ともう一人のエルフ)も付け加えることになりそうだけれど。
『えいでん?』
『えいでんかー』
『えいでん、まつの?』
『いま、どのへん?』
何やら土の精霊だけではなく、光や風の精霊たちが集まりだした。
『いま、あっちらへん!』
風の精霊が、空を指さしたけど、見えませんからっ!
……と思っていたんだけど、なんか、キラリと光るものが。
「え」
光が徐々に黒い小さな点に変わり……おおう、凄いスピードで大きくなってきた!
「エイデン!?」
『さーつーきー!』
エイデンの嬉しそうな声が、響く……いや、轟くか。
――ああ、安定のエイデンだわ。
あんなところから私のことを認識するんだ……凄い。
よく見ると、大きな古龍の腕の中には、小さなレンガ造りの家。いや、古龍のサイズで見るから小さいだけかもしれない。まさかの家ごと運んできたの!?
それにしても、なんか、エイデンがバカでかいっ!?
あっという間に目の前に来たかと思うと、ばっさばっさと大きな羽を羽ばたかせ、巨体なのに音をたてずに着地する。
風が強すぎて、桜が散ってしまうかと思ったら、なんとかもった模様。
ホッとしたところで、エイデンの方を見たら、すでに古龍の姿はなく、満面の笑みで私の方に駆け寄ってくる彼の姿があった。





