第352話 魔道具職人
こんな最新式洗濯機がプレゼントとか、何か裏がありそうで怖すぎるんですけどっ!
目の前の洗濯機の前で固まる私。
さすがに、こんな高級そうなのを、はいそうですか、で、安易に受け取れるわけもない。
何かしらお返ししなきゃ、と思いながらも、洗濯機に見合う物って何? ってなる。
あちらの物だったら、稲荷さんが大概の物は買ってきてあげてそうな気がするんだけど。
もしや、うちの山で出来る物で何か欲しい物でもあるんだろうか。
そもそも稲荷さんは、このプレゼントのことを知ってるんだろうか。
あー、でも、私のイメージでは、尻に敷かれてるっぽいからなぁ。
奥さんの独断専行している様子が、目に浮かぶ。会ったことないけど。
「なぁ、なぁ、ところでサツキ様ってのは、ここに来たりしないのかい?」
目の前にいる私を、五月本人とは認識してないエルフは、こそっと内緒話をするように聞きながら、周囲をキョロキョロしだす。
「レディウムス様から、サツキ様のところには、凄い魔道具があるって聞いてて、お師匠さんが、お前見てこいっ、ていうんで、私がやってきたんだよ」
……うちにある魔道具?
私が思い浮かぶのは魔道コンロ。あとは、獣人の村に置いてある洗濯機。
他にもこまごましたモノを、獣人たちが持っているかもしれないけれど、凄いって言われるような物って何だろう?
「なんでも、光の精霊を使った灯りがあるらしいじゃないか。それも、魔力の補充無しだなんて。どんな仕組みになってるのか、気になって、気になって。ぜひ、それを見させてもらいたくってさ」
うん? そんなのあったっけ?
……あー、ソーラーライトのことか!
そういえば、あのおじいさん、一人で騒いでたような。そんなに珍しい物だったんだろうか。灯りの魔道具なんて、ネドリの家にはあった気がするけど。
「なんでも、サツキ様っていうのは、人族らしいじゃないか。ここにいるのは、ドワーフが少しと狼の獣人がほとんどのようだけど……あ」
魔道具を語ることに夢中で、私の全体像を把握していなかったらしい。
私を見て、おしゃべりが止まる。
「……あんた、耳はどうした?」
「は?」
「ああ! もしかして、変化の指輪でもしてるのかい? いやぁ、全然、魔力を感じないから気が付かなかったよ! 私くらいだったら、大概の魔道具の魔力はわかるんだけど。あ、お師匠さんのは、上等過ぎて無理だけどね。あんたの指輪は、よっぽど、性能のいいヤツなんだな」
「いや、付けてないし」
両手を差し出して見せた。
「え、またまたぁ……あ……ない……ね」
かなり視野の狭い御仁のようだ。
というか、そういう便利な魔道具があるなら、ケイドンの街への買い出しがしやすいんじゃない? もしかして、お高いのかしら。
「……まさか、あんたが、いや、貴方様がサツキ様!?……し、失礼しましたっ!」
思いっきり、90度以上の角度で頭を下げたエルフ。
……気付くの遅いよね。
ふと、周囲を見ると、他のエルフたちの生温い視線。もしかして、彼女のこの行動パターンはいつものことなんだろうか。
「あー、あの、頭をあげてください」
「は、いえ、はい、すみません、すみません」
頭を何度もペコペコさせながら、顔を真っ赤にしたエルフ。
「わ、私は、モリーナと申しますっ!」
「は、はい。望月五月と申します」
「あのっ、そのっ、光の魔道具もなんですがっ」
「うん?」
「こ、この村に、私も置いていただけないでしょうかっ!」
……唐突に、移住希望を叫ばれました。





