第342話 果樹用棚の完成とワインの話
私が頼んだ果樹用の棚は、木工の得意なエトムントさんに任せたら、頼んだ2日目には出来上がってしまっていた。ドワーフのパワー、恐るべし。
目の前にあるのは、いわゆる、藤棚のような感じ。苗が育って、棚に蔓が伸びれば、日差しが強い時期とかには、いい木陰を作ってくれそう。
オースくんも、こんな感じ、っていう私の描いた拙い絵で、洒落た棚を作ってくれた。
おかげでログハウスの壁面は、黒ポットがこれでもか、と並んでいるし、ウッドフェンス側には、テレビで見た苺の食べ放題で見たような棚が並んでる。
ちなみに、すでに苺の苗は伸びに伸びて、青々とした大きな葉で、土が見えなくなっている(遠い目)。
「こいつは、なんの植物ですかい?」
立ち枯れの拠点の中の方には、滅多に入ってこないドワーフたちが、シャインマスカットの苗に興味津々だ。
「これは、シャインマスカットっていう葡萄の苗よ」
「葡萄!」
「葡萄といえばワイン!」
酒に直結するあたり、やっぱりドワーフ。
でも、そんなキラキラした目を向けられても困るんだけど。
そもそも、ワインって、簡単に作れるモノでもないでしょうに。ワインに必要な葡萄の量って、めちゃくちゃ多いイメージなんだけど。大きなワインの樽が頭に浮かぶ。
それに、単純に、シャインマスカットをワインにしてしまうのが……勿体ない。
だって、シャインマスカットだよ? 一房、何千円とかするんだよ?
それをワインとかって……個人的には、贅沢に生食で山盛り食べたい。
「ま、まずは、実がなってみないことにはね?」
精霊パワーは侮れないけれど、どれだけ生るかわからないし。
そう誤魔化したつもりだったのだけれど。
「むぅ、しかし、ワイン……」
「飲みたいのぉ……」
「ここで作ったら、旨いのができそうじゃがのぉ」
「間違いないっ!」
……しつこい。
おっさんたちの上目遣いとか、ウルウルした目とか、可愛くないですからっ!
ドワーフたち、そんなに飲みたいのかっ!
ワインの作り方、そりゃぁ、調べればわかるだろうけど、醸造とかまで、ヤル気はないっ!
「ワ、ワインにはワインにむいた葡萄の方がいいんじゃない?」
「そいつは、むいてないのか?」
「……(いや、知らないし)」
とりあえず、ワインを造りたいなら、葡萄の苗を、かなりの量を用意しなきゃならないし、これから育てるなら、時間がかかる……いや、精霊たちが張りきったら関係ないのか。
なんとかシャインマスカットでのワインを諦めてもらうことが出来たものの、他の葡萄だったら、どうか、なんて話になる。
ドワーフの酒への執念、恐るべし。
棚がこんなに早くに出来上がるとは思っていなかったので、対価になるお酒については、まだ用意できてない。
「そうだ、サツキ様」
近々、買い出しに行かないとダメだなぁ、なんて考えていたところに、ヘンリックさんが、眉をひそめながら、声をかけてきた。
なんだか、少しだけ、シリアスな雰囲気。
「どうかしました?」
「話は変わるんだが、ちーとばかり、相談があるんだが」
「なんです?」
「うむ、そのぉ」
「はい?」
「実はぁ」
「はい」
「ひ、人を増やしてもいいだろうかっ!」
思わず、耳を塞ぐくらいの大声に、思わずびっくり。
ヘンリックさん、そんなに怒鳴らなくても聞こえますって。





