第341話 果樹用棚をお願いする
カーン、カーンと、金槌の叩く音が響く。
ネドリたち、獣人の村の北側、エイデンの山の麓には、ドワーフ独自の家や作業場が連なっている。ここに住みついてそれほど経っていないのに、すっかりドワーフの家が馴染んでいる。
作業場の入口は、開けっ放し。奥の作業場の方は相当熱いのかもしれない。かなり騒々しい音が聞こえてきて、まさに、鍛冶屋って感じだ。
最近は、ダンジョンに行く獣人が多くて、武器や防具、そのメンテナンスに忙しいらしい。
そのメンテナンスに使う素材となる金属を、どこで手に入れてるのか気になって聞いてみたら、ダンジョンで採掘できるらしく、獣人たちに依頼しているらしい。
……ダンジョン、なんでもアリだな、と思った(自分で入ろうとは思わない)。
今日は、ドワーフのヘンリックさんに、黒ポットや、苺用のプランターを置くための棚や、シャインマスカット用の大きな果樹用の棚のことを相談しにやってきたのだ。
小さな棚くらいだったら、私でも作れるには作れるだろう。でも、どうせだったら、上手い人に作ってもらった方が、いい物ができるはず。
ちなみに、鍛冶を任せるんだったら、ヘンリックさんが一番なのは当然。しかし、こと、木工で果樹用の棚を作ってもらうとなると、誰にお願いしたものか、となる。
一応、彼がドワーフたちのリーダーってこともあるし、誰が何が得意なのか、というのも把握しているはずだ。
「こんにちは~、ヘンリックさん、いらっしゃいます~?」
テンポよく打つ金槌の音を止めるのを申し訳なく思いながらも、作業場の中へと声をかける。しかし、金槌の音は止まらない。
「ヘンリックさ~ん?」
「あー? おや、サツキ様じゃないですかい」
「忙しいところ、ごめんなさいね」
額の汗を拭いながら現れたヘンリックさん。その後から、もう一人、ドワーフではなく、狼獣人の若者が出てきて、ペコリと頭を下げた。
村人の多くは狩りや農作業をしている者がほとんど。彼は鍛冶に興味があるのか、ヘンリックさんの手伝いでもしているんだろうか。
多くの狼獣人の男性が比較的大柄でガッシリしているのに対して、この若者は、まだ大人の身体になりきれていない、ひょろりとした感じだ。
「ちょっとお願いがあって……」
私はヘンリックさんに、黒ポットやプランター、果樹用の棚を作りたいことを伝え、木工の得意なドワーフがいればお願いしたいのだけれど、という話をした。
「なんでぇ、なんでぇ、そんなことですかい。だったら、オース、その小さい方の棚だったら、お前さんでも作れるだろう?」
オースと呼ばれた狼獣人の若者は、少し考えた後、コクリと頷いた。
聞くところによると、元々、彼の祖父は獣人の村のなんでも屋(鍛冶も木工もやる)だったらしい。残念ながら、その祖父は2、3年前に亡くなってしまったそうだが、祖父の技を近くで見てきたせいか、オースくんはまだ若いのにそこそこの腕前らしい。
「大きな棚は一人じゃ無理だろうから、木工の得意なエトムントに話をしておきますが、小さい棚ぐれぇなら、オースでも十分でさぁ」
「お願いします! あ、料金の方は」
「いやいやいや、サツキ様から、金なんか貰えませんって」
「ダメダメ、ちゃんと対価は払わせてよ」
結局、押し問答の末、ドワーフにはお金ではなく、お酒、オースくんにお酒ってわけにもいかないので、彼にはお小遣い程度のお金を渡すことに。
タダ働きはいかんですよ。
とりあえず、お酒に関しては、アルコール度数の高そうなのであれば、問題なさそうなので、今度、買い出しの時にいいヤツを探しておこうと思った。
ついでに、ビャクヤたちの山の上の巣のあるあたりで、なんかいい金属、探しておこうかな、と思ったのは、内緒だ。
 





