第339話 苺とマンゴーと、ユグドラシルと
ログハウスの敷地の四隅に植えた果樹は、桜、梅、林檎に、柿。
保存庫のそばの梅が散り始めていて、トンネル側の門の桜の蕾が膨らみ始めている。
少し暖かい風が吹き始めているので、そろそろ開花してもおかしくはないかもしれない。
ちなみに、ログハウスの正面に植えたアボカドの苗木は、四隅の果樹に比べると、まだまだ小さい。普通に植えたモノだったのと、植えた時期(あちこちに色々植えまくった)が悪かった模様。精霊たちも大忙しだったんだろう、ということにしておく。
そんな中、私は今、長めのプランター3個に、苺の苗10個を植えている。まだ、台になる物は用意できていなくて、とりあえず植え替えだけ先にしているのだ。
『さつき~、これは、なーに?』
「うん? これは、苺」
『いちご?』
「そう、美味しい実がなるのよ」
土の精霊たちが興味深々に飛び回っている。
山のあちこちに果樹やハーブ、花などを植えたおかげか、この敷地の精霊比率は下がったとは思うものの、相変わらず、ぴっかぴっかと飛び回っている。
『すぐおおきくする?』
前だったら、勝手に育ててしまった彼らだったけれど、今では一応、確認してくれる。
「ううん、この苗のペースのままでお願い」
『わかったー』
「枯れないようにだけ、見ててくれる?」
『はーい!』
一応、日当たりのいいログハウスの脇に並べて置いたけれど、早いうちに台も用意しなくては。後で、ヘンリックさんの所に行って相談しよう。
「あとは、マンゴー」
まさかマンゴーの種が、あんな平べったい物だとは思わなかった。一応、ネットで調べておいて正解。育つとかなり高い木になるらしく、これを囲うビニールハウスなんて無理かも、と思ったり。
案の定、暖かい環境じゃなきゃ育たないらしいし、どうしようか、とも思ったけれど、すぐに大きくなるものでもないだろうし、とりあえず、室内で育てて様子を見ようかと。
そもそも、発芽してくれるかどうか……精霊が、発芽させそうな気もするけど(遠い目)。
さすがに一気に3個食べる勇気はなかったので、1個だけ。残りは、またゆっくりと。
うちの畑の土の入った黒ポットに種を植える。
『このこはぁ?』
土の精霊が黒ポットの端に腰をかけて聞いてくる。
「この子も様子だけ見てて」
『わかったぁ~(ちょっと、よわっちいから、ほいっ)』
精霊が土をポンポンッと叩いてあげている。うん、可愛いねぇ。
「次に植えるのは……この子たちか」
私が『収納』から取り出したのは、ユグドラシルの枝。
なぜ、ここにユグドラシルの枝があるかというと、エイデンに頼まれたのだ。なんでも、獣王国の山に植えたいらしい。あそこだったら、人は入ってこないし、フォレストウルフたちがいるので、他の魔物に掘り返されたりしないだろうと。
そして、一番は、大きく育てば、浄化もしてくれるようになるそうだ。
すっかり忘れてたけど、うちのユグドラシル(すっかり、うちの子)のおかげか、村の周辺、荒地だったところに、草が生えだしてたりする。あの黒ずんでいた土地ですらだ。
私には、あの獣王国の山の方は、目に見えて浄化が必要そうには見えなかったのだけれど、圧倒的に精霊の数が少ないのだとか。
私が常駐してれば、徐々に増えてくるらしいのだけれど、さすがにそれは現実的ではないので、ユグドラシルの出番らしい。
目の前にあるユグドラシルの枝は、掌サイズの物が3本。ユグドラシルが、エイデンに言われて自ら落としてくれた枝だ。
ユグドラシルと会話とか、さすが、エイデン、である。
「まずは、根が出てこないと植えられないからねぇ~」
マンゴーと同じように、畑の土の入った黒ポットに、枝を刺す。
「ちゃんと育ってねぇ~」
そう声をかけながら、如雨露からたっぷりの水をかけてあげたのだった。
* * * * *
『ウマイゾ、ウマイゾ』
『アニジャノトコヨリ、クウキガウマイゾ』
『アニジャノトコヨリ、ミズガウマイゾ』
『そりゃぁ、そうさ』
『なんたって、さつきのいるところがいちばんさ』
ユグドラシルの枝たちと、土と水の精霊が、そんな話をしてたなんてことは、五月は知らない。





