第338話 稲荷さんとお米
ファミレスで遅いお昼を食べてから、キャンプ場に向かった。
久々の外食(獣人たちとの食事は、ちょっと違うと思う)のせいか、やたらと、ファミレスのご飯が美味しく感じた。
苺フェアをやってたので、速攻でモリモリの苺パフェを頼んでしまった。
こういうのは、あちらでは食べられないからなあ、としみじみ思ったのは、言うまでもない。
キャンプ場の管理小屋は、受付に人が数人固まっていた。
女の子ばかり、学生さんたちのようだ。春休みに皆で来た、というところだろうか。ワイワイきゃいきゃい、賑やかなこと。若いっていいな、とか……思ってはいない。
一方で、稲荷さんが、ちゃんと管理人している姿に、思わず感心してしまった。
「お待たせしましたね」
「あ、いえいえ……遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします」
「あー、そうでした。今年、初めてでしたね。よろしくお願いします」
ペコペコと挨拶をした後、とりあえず、この冬の出来事をサラッと報告した。
特に、街からの来訪者と神罰の落雷の話をしたところ、
「いやぁ、さすがイグノス様ですね」
ちょっと呆れたような、まぁ、予想通り、みたいな稲荷さんのリアクション。彼にしてみたら想定内なのだろう。
口座への入金金額の話をしても、前回増額している理由を考えれば、予想できることでしょう、と笑われてしまった。それにしたって、限度があると思うのだが、言ったところで、流されるだけだろう。
「それとは別に、相談したいことがあって」
「なんでしょう?」
「実は、農協の直売所についてなんですけど」
お昼を食べながら、ちょっと調べた。
このあたりには、キャンプ場の周辺5キロ圏内に、直売所が3か所あったのだ。そのうち1か所は道の駅の中にあるタイプ。
あとの2か所は、それよりもちょっと規模が小さいようだった。
「どうせなら、稲荷さんのお知り合いとかが出してるところとかで買えたらいいなぁ、と思いまして」
「何をお求めで?」
「米です」
スーパーで10キロの袋を3袋買ったのはいいものの、直売所の方が安いのではないか、というのに思い至った話をした。
「なるほど。望月様ご自身で、お米、作らないんですか?」
「あー、そう、ですねぇ」
正直、興味はある。
しかし、テレビで某アイドルの稲作風景を見たこともあって、単純に大変そうだと思うし、自分でやれるだろうか、とも思う。
「精霊たちが手伝ってくれるでしょうから、そんなに苦労はされないと思いますけど」
「あはははは」
うん、そうかもしれない。
「今日はすでに買っていらしたのであれば、今すぐではないですよね」
「ええ、次に買い出しに行くのがいつになるかはわかりませんけど……なんか、すぐに無くなりそうな気もしてまして」
遠い目になった私を見て、ああ、と納得している稲荷さん。
「それでは、よければ知り合いの農家から分けてもらっておきましょうか?」
「え?」
「うちは新米の出るころに、玄米の状態で分けてもらってるんですよ」
「……あちらで召し上がるんです?」
「妻が好きでねぇ」
ニヤリと笑う稲荷さん。
「美味しい米は、美味しく作って下さる方にお願いするのが一番ですよ」
うん、エルフの里では育たなかったって言ってたっけ。
「望月様は、せっかくでしたら、やってみてもいいのでは?」
自分はやらずに、人にやらせるのか! と、ツッコミはしなかった。
結局、次に来た時に、籾殻付きの玄米を分けてもらう約束をした。
脱穀とか、精米とか、道具が必要そうだけど、今はまだいいか。
ついでに麦の種のこともお願いしておいた。時期が合わないとは言われたけれど(稲荷さん、物知り)、精霊がいれば季節関係ないかもしれませんが、と遠い目で言われたのは、忘れない。
 





