第333話 オークが美味しい……だと?(ショック)
獣人たちが、『オーク』祭りだ! と、盛り上がっている。
私は思った。
――え、本気でアレを食べるの?
と。
私が目にしたのは、頭一つ出ていた大きな『オーク』。あの厭らしい嗤いを浮かべた、二足歩行の生き物は、明らかに、人と同じに見えた。顔はアレだけど。
それを食べる。
正直、血の気がひいた。
しかし、こっちではご馳走なのだろうことは、彼らの喜びようからも察することはできるから、私が否定するのは失礼だろう。
『五月! いっぱい狩ってきたぞ!』
ハクたちが自慢気に持ってきたのは……やっぱり『オーク』。
「え、3体だけじゃなかったの……」
ホワイトウルフたちが、ズルズルと引きずってきているのは5体。
皆、戦ってきた後のようで、だいぶ汚れが目立つ。口元が赤いのは……そういうことなんだろう。これは、村に戻ったら、毛梳き決定だな。
身体の大きさは、獣人たちよりちょっと大きいくらいだろうか。
顔が猪顔なのに、普通に人型のせいで、どうも忌避感が拭えない。それに血の臭いとこの生き物の臭いのせいもあるかもしれない。
さっき見た巨大なのは、こん棒の他にも防具っぽいモノを着ていたようだったのに、彼らが持ってきたのは、少し小柄で腰にボロ布を纏っているだけ。明らかに、大きいヤツはリーダーだったのだろう。
「……こんなにいたの」
私が驚いていると、メリーさんが「まぁ!」と喜びの声をあげている。
「ハク様! そちらは頂いてもよろしいのですか!?」
『いいぞ! 五月に食べさせてやれ!』
彼らの間で会話は成り立たないはずなのに、通じ合ってる。
「先ほどの上位種の方が味は上でしょうが、これもなかなか」
すごく嬉しそうなメリーさん。
「おお、さすがですねハク様!」
「いやいや、こいつは凄い」
獣人たちが集まってきて、盛り上がってる。そして『オーク』を受け取って、皆でどこかに持っていった。
「……アレ、本当に食べるんだ」
『旨いぞ!』
ハッハッハッ、と嬉しそうに尻尾をふるハクの頭を撫でてやる。
「ねぇ、ビャクヤ」
『はい』
「ああいう人っぽい魔物って、多いの?」
『そうですね。あちらの山周辺にはおりませんが、こちらの魔の森には多くいるようです』
「そ、そうなんだ……こっちでは、そのぉ、よく食べるのかなぁ?」
ここで野営を続けるなら、獣人たちの喜びようからも、アレが食卓にも上がってくるのは確実だろう。
『よく食べるのはオークくらいでしょう。ゴブリンなど身体は小さいし、骨ばっているし、臭過ぎて我らでも食べる気にもなりません。オーガは先ほどのオークよりも身体は大きいですが、筋張っていて人族は食べないかと。強いて言えば、この辺りでは見かけませんが、ミノタウロスはかなりの美味です。これは五月様にぜひ召し上がっていただきたいですね(エイデン様なら、狩ってこられるでしょうが)」
ミノタウロスって、神話で聞いたことあるぞ。牛の頭のアレだ。
それが、こっちには魔物で存在してるって!?
「そ、そうなんだ……猪や鳥の魔物とかは食べたことあるけど……オークって、よく食べるんだ……そうかぁ……」
『五月様も召し上がっているではないですか』
ビャクヤの言葉に固まる私。
『よくエイデン様が、ダンジョンから持ち帰られていますから』
「は?」
『まぁ、エイデン様が持ち帰られるのは、オークの中でも上位種や特殊個体ですので、かなり上等なモノばかりですが』
「……え?」
『そういえば、先日も塊肉を持っていらして。あれは我々もご相伴させていただいて……あれは大層美味でございましたね』
そして、初めて知ることになる。
――私は既に、オークを食べていたことを。
確かに、かなり上等な豚肉だなぁ、と思って受け取っていた。
イイ感じに脂ののった塊肉は、塩コショウだけだった味付けなのに、厚めに切って焼いてみれば甘味が強くて、歯ごたえもあるけれど、歯切れは悪くなくて、噛みしめるほどに旨味が溢れて……思い出しても涎が出そうになる。
きっと、あちらでいえば、百貨店とかお肉の専門店でも、いいお値段しそうだなぁ、って思ったのが……。
――アレがオークの肉だったのかっ!?
ショックでしばらく動けない私なのであった。





