第330話 フォレストウルフ
ホワイトウルフたちが唸り声を上げ始めた。
「……魔物?」
『大丈夫です。我々がお守りしますので』
しばらくすると、魔の森の際、枯れ草の合間から、ホワイトウルフたちより一回り小さな……一匹の灰色の狼が現れた。あちらでも見たことのある狼の姿そのものだ。
「……普通の狼?」
『いいえ、あれはフォレストウルフと言われる種類の魔物です』
私の記憶の中で魔物といえば、イノシシタイプか鳥タイプの食用のモノか、あとは蛇か。
ホワイトウルフたちも魔物といえば魔物だけど、完全に飼い犬状態。皆、獣人たちに毛を梳いてもらってるから、ピッカピカよ。
一方のフォレストウルフは、やっぱり野生って感じなのか、薄汚れてる。そのせいもあるのか、魔物というよりも、大きな犬のような感じがしてしまう。
その灰色のフォレストウルフ、尻尾が完全に股の間に巻き込んで、足なんかプルプルしてない?
あれ、絶対、怖がってるよね。
『あれは、メスのフォレストウルフですな』
言われて気付く。少しだけお腹が膨らんでる?
「どうしたっていうのかしら」
どう見ても、ホワイトウルフたちに敵うわけもない状況に、わざわざ森の中から出てくるなんて。
二匹のホワイトウルフがゆっくりと近づいていくと、フォレストウルフは完全に伏せの状態に変わり、ついにはお腹を見せた。
「完全服従って感じよね。何もしないであげて」
『はい』
ビャクヤがゆっくりとフォレストウルフの方へと近づいていく。
すると……。
キャンキャンキャンッ
ガウガウッ
キャン
まさかの柴犬サイズのチビフォレストウルフたちが3匹現れた。
なんだ、あの可愛さはっ!
どう見ても母親を守りに来た子供たちにしか見えん!
たぶん、ビャクヤとの会話に邪魔だったんだろう。ホワイトウルフたちが子供らの首根っこを咥えて離れていく。
ちょっと可愛い。
ママさんフォレストウルフは何も出来ずに、そのままの体勢。あれ、きつくないの?
しばらくすると、フォレストウルフは普通のお座り状態に戻り、頭を深く下げたまま。
しばらくして、ビャクヤが戻ってきた。
『五月様、あの者たちなのですが』
「うん、どうしたって?」
話を聞くと、元々、この山の麓周辺にフォレストウルフたちのコロニーのようなものがあったらしい。それが昨日、巨大な何かの威圧によって、散り散りになって逃げてしまったのだとか。
……もう、私たちのせいだよね。
で。このフォレストウルフは、リーダーの兄と旦那さん、姉の子供たちと一緒に逃げたのはいいんだけれど、タイミング悪く、北からやってきたオークの集団とかち合ってしまったのだとか。
……ねぇ、この『北から』ワードに、『エイデン』が結びつくのは私だけじゃないよね。
1匹2匹だったら、フォレストウルフには良い餌なオークだったのだけれど、生憎と子連れの妊婦な彼女を護るのは2匹のオスしかおらず、兄と旦那さんが戦うことで彼女たちを逃がしたのだとか。
子供たちと彼女は、なんとかここまで戻ってきたところで、さっきの『伐採』の場面に遭遇したのだという。
多くのホワイトウルフたちの遠吠えに、種族は違えど、力のある者に、せめて子供たちだけでも助けてほしいと、死ぬ気でお願いに来たようだ。
「フォレストウルフって、ホワイトウルフからしたら」
『格下も格下、相手にもなりません』
だよねー。
身体の大きさもさることながら、彼女のちょっと痩せている様子に、魔の森で生き抜くのも大変なんだろうと思わされる。
「ビャクヤたちがいれば大丈夫かしら」
『五月様でしたら大丈夫です』
「うん?」
『我らがお守りしているのは、あの者にもわかりますから』
「……ありがとね、ビャクヤ」
わしわしっと彼の背中を撫でると、大きな尻尾がふっさふっさと動く。
可愛いぞ!
「私はさっさとガーデンフェンスやっちゃいたいから、彼女たちのことは任せてもいいかな」
『はい。それは、うちの者が』
「うん、よろしくね」
今度こそ、ちゃっちゃとやっちゃいますよ!
 





