第328話 獣王国の近くの山にて(2)
結局、ガーデンフェンスを背にした長屋を、4軒(部屋が合計12部屋)作ることにした。ちょっとした村だわ。
彼らの設営したテントには、備品や食料が置かれている。軽トラの荷台以外にも、彼ら個人が持っているマジックバッグ(小型の物らしく、あまり多くは荷物が入らないらしい)から荷物を取り出したらしい。
「いやはや、エイデン様のおかげで、だいぶ過ごしやすくなりました」
すでに日も傾いて、周囲の高い木々の影に入ってしまった。
私たちは焚き火の前に集まり、食後のインスタントコーヒーを飲んでいる。
周囲を見てきたエイデン曰く、まだ侵入者などはいない模様で、簡易的に山全体に結界を張ってくれたらしい。エイデンさすが。
その結界のお陰もあってか、外気温はそれほど下がらないという、ありがたいオマケ付き。むしろ、獣王国方面では雪がちらついているそうだ。
何をやってるんだ、エイデンくん。
「こんな寒いところに五月を寝かせられんからな」
人の姿のエイデンが自慢げに言う姿に、苦笑い。ありがたいんだけどね。
「明日からだけど」
私はタブレットを手に持ち、『地図』を開く。
イグノス様から与えられている土地が、デデンッと表示される。範囲がちょっと大きめなので、必要な場所だけに表示を変える。
「やっぱり、かなり広いよね」
見た感じ、うちの山の倍くらいありそう。
――これを全部ガーデンフェンスで囲むの!?
長期戦だとは思っていたけれど、だいぶ時間がかかりそう。お風呂とトイレ、持ってきておいてよかった(長屋の裏手に設置済み)。
問題は木材。『収納』してある量は、そう多くはない。基本、間伐で間引いている木材で、すぐに薪にしちゃってるから(ちなみに、獣人の村の家屋だった物は、すでに使用済み)。
だからといって、今回の山の斜面の木を選んで間伐していく時間的余裕はなさそう。
「魔の森側を伐採していくのが無難なのかなぁ」
『ヒロゲルクン』の機能を使えば、山の斜面の方をまとめて『伐採』することができる。でも、大量の伐採で土砂崩れとか起こりそうな気もするのだ。
これやると、単純に、魔の森分、自分の敷地も増えてしまうんだけど……まぁ、いいか。
獣人たちは基本私の護衛ってことらしいんだけど、手が空いているのであれば、間伐や山の中を調べてきてもらってもいいかもしれない。『地図』じゃわからないこともあるしねぇ。
簡単な方針だけ決めると、エイデンたちに説明する。
「木材であれば、俺がトッてくるぞ?」
……どこからですか、エイデン。
獣王国とか帝国とかあたりからトッてきそうで恐いんだけど。
「いやいやいや、できるだけ、ここの山周辺ので何とかしようよ」
「ふむ……五月はこちらから『伐採』するつもりなのであろう?」
エイデンはタブレットの地図を覗き込みながら、今いる私たちの拠点(山の一番南端)から北に向かって指を動かす。
「そうね」
「だったら、俺は反対側から切り倒して来よう」
エイデンのパワーを考えると、魔の森が禿げちゃわないか心配になる。
「ほどほどにね、ほどほど」
「わかっている」
ニヤニヤ笑っている様子が、信用できないんだけどなぁ……。
「我々はどうしましょうか」
ドンドンさんの声に、他の獣人たちも頷く。
一応、私が『伐採』しようとしている魔の森は、エイデンの結界の外にあたるらしい。
「せっかくなので……私の護衛をしつつ、山側の間伐か、村の方面への伐採をお願いできます?」
急ぐのは獣王国に近い部分だけれど、南下していく村の方向にも用意は必要かもしれないし、そもそも、私の『伐採』で足りるかわからない。
せっかくなら、獣人たちが伐採した分も、当然、ガーデンフェンスにしてしまおう。
「お任せください!」
……獣人たちの目がヤル気でキラキラしてるのは、焚き火の光の反射のせいかなぁ。





