第327話 獣王国の近くの山にて(1)
古龍の姿のエイデンに下ろされた場所は、獣王国の近くの山の山裾。けっこう切り立った山で、平坦な場所が見当たらず、結局はうちの敷地の外、魔の森の端。
周囲は深い森だ。うちの山も、そこそこ木が茂ってはいたけれど、ここはもっと深い。
雪などは残ってはいないけれど、山から吹き下ろす風が冷たい。夜は冷えそうだ。
エイデンが軽トラを下ろす場所を作ってくれたおかげで、その場所はだいぶ開けた場所となってしまった。
『周りを見てくる』
ぶわっと飛んでいくエイデンを見送り、まずはどうしたものかと、山を見上げる。
――けっこう高そうだな。うちの山より、大きくない?
到着したのはお昼は既に過ぎていた。
これをガーデンフェンスで囲い込めるのか?
出来たとしても、どれくらいの期間で可能なのか、不安でしかない。
「長期戦で考えないとってことよねぇ。その前に、とりあえず、ここに拠点作らないとか」
「お手伝いします!」
元気に手をあげたのは、一緒に来た獣人の一人。最初に獣人の村から逃れてきた若者のメンレーちゃん。
「俺も!」
次に声をあげたのは、メンレーちゃんと一緒に逃げてきたナードくん。
2人ともまだ10代半ばだ。
「サツキ様、本格的な作業は明日からにしましょう。さすがに、この状況で夜を過ごすのは、魔の森では危険です」
冷静な言葉を発したのは、ドンドンさん。
出発までにネドリたちがダンジョンから戻ってこれなかったので、ハノエさんがドンドンさんにリーダーとして同行するように言ってくれたのだ。
「先ほどまではエイデン様がいらしたので、周囲に魔物はおりませんが、しばらくしたら戻ってくるかもしれません」
「全員で必ずお守りしますが、念のため急いだほうが」
こちらは護衛メインのスコルさん、メリーさん夫婦。30代後半で二人ともいい体格をしている。すでに大きな息子さんがいるらしく、その息子さんも冒険者であちこちに行っているそうだ。
残りの5人の獣人さんたち(木こり担当)もすぐに鉈を取り出して、周辺の低木や枯れ草を刈り始めた。
「わかった。じゃあ、まずはこの周囲の倒木を『収納』しちゃうね」
かなり大きな倒木と木の根を『収納』すれば、マシな状況にはなった。
軽トラを中心に置いて、さっき『収納』した木材を使って、周囲に大型のガーデンフェンスを設置していく。
ぐるりと囲い終えてドアまで設置する頃には周辺の整備も終わり、軽トラの荷物(主に食料)を下ろしたり、ドンドンたちはテントを張り始めている。
メンレーちゃんたちは枯れ枝を集めてきたようで、中央では焚き火が燃えていた。おかげで、少しは寒さもマシのようだ。
「私も用意しなきゃ」
一応、『収納』にしまい込んでいた自分のテントも取り出してみた。
「……ちょっと生地薄いかな」
久々に手にしてみると、テントの生地がこの早春には寒そう。
寝袋も防寒用のシートも持ってきてるけど、やっぱり地面からの冷えはこの程度じゃ厳しいかもしれない。
もう少し暖かい時期だったら気にしなかったんだろうけど。
「せっかくだし、長屋でも作るか」
作業期間がどれくらいになるかはわからないし、後から応援に来てくれるという話もある。でも、ログハウスほどの物を作るほどではない気がしたのだ。
ササッと長屋(3部屋)を作ってしまう。
並んだ部屋のうち真ん中の1部屋に、テントをたてた中に防寒シートを敷いて寝袋を置く。これで少しはマシになったかな。
「……サツキ様、やっぱり凄い」
私が一人納得していると、メンレーちゃんとナードくんが呆然としながら立っていた。
 





