第326話 神罰と結界
急な落雷に、叫ぶものと、固まる者が続出。
私は固まる方。
「愚か者がおったようだの」
冷静な言葉はエイデン。皮肉気に笑みを浮かべている様子は、魔王様みたい。
門の外の方は、かなりの騒ぎになっているようで、ギャーギャーと騒々しい。
「何、何、何」
『ブタが、かみをとったのー』
私の疑問に答えたのは、風の精霊の一人。
『そうそう、かみをとって、やぶこうとしたのー』
続いたのは水の精霊。
それって、さっき司祭様に渡した契約書のこと?
あのブタがそれを破こうとしたってこと? 馬鹿なの?
『ばかなのー』
『おろかものー』
『まっくろこげなのー』
『すくなかったかみが、ぜんぶぬけたのー』
『かみだけにー』
『きゃははははは』
他の精霊たちまで楽し気に騒ぐ。
「え、いや、死んでないよね?」
嫌よ、村の入口に死人とかいたら。
『しんでないよー。ころがってるー』
『ブタのまるやきー』
『あー、ばしゃのなかにおしこまれてるー』
『ほかのれんちゅうも、びびってるー』
『じごうじとくなのー』
うん、そうね。イグノス様が『神罰が下る』って言ってたものね。
「はぁ。まぁ、あっちはいいや。勝手にやってくれって感じだわ……それよりも、よ」
「どうしたのだ」
チラリとエイデンに目を向ける。
「……さっき、土地が光ったって言ってたじゃない?」
「ああ」
「あれ、私の持っている土地全てが光ったっていうの(イグノス様が)」
「なるほど?」
「ということは、獣王国に接している山あたりも同様に光ったはずなわけ」
「……目ざといヤツが山に来るな」
「そういうこと」
実際、あの辺の山は持っているだけで、何の手入れもしてはいない。
遠いし、私の目が届くような範囲でもない。だから人知れず入り込まれてたら、私だって気付かないだろう。
――わからなければ、別にイイ?
でも、一旦、自分のモノとなってしまったと思うと、知らない誰かが無断でうろついたり、住みつかれたりしたら、やっぱり嫌だなぁ、と思う。
「結界かぁ……」
ほんと、遠いのよねぇ。
獣人ですら、獣王国に行くのに全力で2、3日はかかるって聞いた覚えがある。そもそも、同じ獣王国の方向とはいえ、平地を進むのと山の中では進むスピードも違う。道なき道を進むにも、スーパーカブや軽トラじゃ、限度ってものがあるし。
現地に向かいながら結界となるガーデンフェンスを設置していくのも時間がかかるしなぁ。
「サツキ様、私たちにお手伝いできることはございますか」
一人悩んでいる私に、ハノエさんが声をかけてきた。
コッソリ話したつもりでも、彼女たちの耳には届いたってことか。さすが獣人。
どうしたものか、と考えていると。
「俺が山まで運んでもいいぞ?」
「エイデン?」
「急ぎたいのは、獣王国の近くだろう? 先にそっちの結界だけでもしてしまえばよかろう。しばらくの間なら、奴らが来れないよう、俺が何とかしてやるぞ?」
「……ふむ」
エイデンの『何とかしてやる』に、思い浮かんだのは、去年の冬の豪雪のこと。
実際、アレのせいで、敷地から出られなかった。
もしかして、アレの再来?
この辺りはそろそろ春の日差しも増えてきたけれど、北側にある魔の森だったら、まだイケるのか?
いや、でも、この人、ほどほどってことを知らないような。
作業自体、結構時間かかる可能性もあるし、その間、作業してるこっちも寒い思いしなきゃいけないんじゃ?
ニコニコと笑うエイデンに、そこはかとない不安が、あったり、なかったり。
結局、翌日早朝。
すぐに動ける獣人10人程を軽トラに乗せ、私は獣王国の近くの山へと向かうことになる。
 





