第325話 自由なイグノス神……人はそれを無責任ともいう
――なんだったんだ、あれは!
門の中に駆け戻り、思わずこけそうになったのを、エイデンに抱えられてしまった。
「あ、ありがと」
「いや」
……なんか、口元にやけてるのが見えて、ちょっとムッとしてしまう。
「……あのイグノス様の姿って、こっちでは普通なの?」
「知らん。俺はアイツの姿など見たことはないからな」
私も声でしか認識してなかったから、あの姿に驚いたのだ。
なぜ、遮光器土偶!
一度、こっちの教会とかで、どんな風に祀られているのか見てみたい気がする。
「サ、サツキ様」
「あ、ハノエさ……ん?」
呼ばれた声に反応して目を向けると、なぜか獣人たちまで跪いていた!?
「え、え、どうしたのよ」
「サツキ様が、神の使徒であらせられたとは……」
「は?」
「聖なる力をお持ちではあると思っておりましたが、まさか……今までのご無礼をお許しくださいっ!」
ザザザッという音とともに、集まっていた獣人が、今度は土下座してるっ!
まさか、あの土偶の姿が、こっちにも見えてたのっ!?
確かに、かなり上の方でぴかーってなってたけど!
それにデカかったけど!
この反応って、やっぱり、アレがイグノス様の姿確定なのか……?
「あー、いや、その、もしかして声まで聞こえたの?」
「はいっ! ハッキリと! そして、我々のいるこの土地も急に光ったのです!」
「へっ!?」
真剣な目のハノエさんの言葉に固まる。
何が光ったって?
「急に光ったのです!」
コクコクと皆頷いてるし!
「……光ったってどれくらい」
「それはもう! 山全体が! もう見事にぴかーっと!」
あうっ!
ハノエさんのキラキラとした眼差しが痛いっ!
『おーい、五月~』
「はっ?」
そんな中、突如、頭の中にイグノス様の声が響いた。
「どうした?」
エイデンが心配そうに見下ろしている。
「あ、え、あー、ちょっとね」
『他の者には聞こえないようにしてるからな』
なんですって! ここで一人反応したら、変な人に見られるじゃないですか!
聞こえたら聞こえたで、もっと厄介だけど!
周囲が見つめてくるこの状況で、声なんかかけてこないでほしいんだけど!
『急いでるからな、そこは許せ』
私の心を読んでるっ!?
『気にするな~。それよりもだ、光ったのは私に認められた範囲の土地だ』
うん?
『だからな、ここだけではなく、契約された範囲ということは』
「……まさか獣王国の近くの山も」
『その通り』
え、ていうことは。
『気付いた者はいるだろうなぁ。急がないと変な奴らが山に入り込むかもしれんな』
「そんな無責任なっ!」
「ど、どうした、五月!」
思わず膝から崩れ落ちる。
「え、じゃあ、何、もしかして不審者とか山の中に住みつくとか? あ、いや、先住民とかいたりして?」
『住んでる者はいなかったが、これからはわからん……早いところ、結界を張った方がいいぞ~』
クスクスと笑っている声に、カッとなり空を睨む。
「他人事だと思って!」
『ほっほっほ~、よろしく頼むぞ~』
楽し気なイグノス様の声に、思わず「いけずー!」と怒鳴り返したと同時に。
ピカッ!
ズドドドーーンっ!
門を挟んだ反対側、司祭様たちがいたところに激しい稲光が落ちた。
 





