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領主代行を任されている領主の義弟から、荒地に出来たという村に行くよう教会へ通達がされたのは、年明け早々のことであった。
王都の権力闘争に破れ、長閑な辺境の地の教会へ左遷され、司祭にまで落ちた元大司教ピエランジェロ。彼は、この土地で残りの人生を送るのもいいと、諦めにも似た気持ちで過ごしていた。
そんな彼に出された通達に、年寄りにこんな寒い時期に荒地へ行けとは随分と無体なことをいうものだ、とため息が出た。
幾分ましだったのは、その荒地に向かう足は領主側が用意をしてくれるということ。辺境の地ということで、教会に多くの予算があるわけでもない。余計な出費が抑えられたのは僥倖であった。
彼は移動の間の身支度だけをして、出立の連絡を待つばかりであった。
「すまぬ、司祭殿」
荷物をまとめ終えたピエランジェロが日々の祈りをしているところに、領兵の一人が駆け込んできた。
「どうしましたか」
「王都からまた連絡が来てな、王都の司教様が来て下さることになったのだそうだ。せっかく、用意をしてもらったのに、申し訳ない」
「いえいえ、こちらとしたら、こんな寒い時期にわざわざ来て下さるという奇特な司教様に感謝ですよ」
「違いない」
その場では二人で笑い話にはなったのだが、その数日後、王都から立派な馬車が到着した。その馬車から降りてきたのは豪奢なローブを身にまとった司教だった。
「ピエランジェロではないか」
「……ご無沙汰しております」
皮肉気に声をかけてきた司教は、ピエランジェロの元部下であった。
「領主代行殿、急なことだった故、私の身の回りの世話をする者が足りなかったのです。司祭を同行させてもいいだろうか」
「はい、司祭殿、頼まれてくれるだろうか」
王都のことに疎い上に、空気を読むのも下手な義弟には、この2人の関係などわからない。
「……かしこまりました」
苦々しく思いながらも、顔にはその思いを隠し、司教たちと同行することとなる。
寒風吹きすさぶ中、荒地の村の前に佇む一行。
「まったく、私をこんなところで待たせるとは!」
そう言いながらも馬車の中から一歩も出てこない司教。一方のピエランジェロは兵たちとともに門の前で待つ。
「あ、開きました」
兵の言葉に視線が扉へと集中する。
「……男? 女? どっちだ」
ざわざわと声が上がる中、細身で小柄な中性的に見えるが、恐らく女性と、立派な体躯の大柄な男性が2人……そして、大柄なホワイトウルフがぞろぞろと出てきた。
「ホ、ホワイトウルフ……」
兵たちが腰が引ける中、ピエランジェロだけがその場から一歩前に出る。
「……村の代表者でしょうか」
声は震えてはいない。しかし、大柄な男性から感じる威圧に周囲の空気がピリピリしている。
「ええ、すみません、お待たせして」
落ち着いた女性の声に、ピエランジェロは小柄な方へと目を向け、やはり女性であったかと、納得をする。
「この土地の書類の確認をお願いした「おい、そんなことのためにわしを呼んだのかっ」」
馬車から顔だけ出して怒鳴る司教に、周りの目が向く。
「……アレはなんだ」
大柄な男性の呆れたような声に、ハッとする。
「あ、あちらは王都から来ていただいた司教様で」
「うん? お前の方が高位なのではないのか?」
「は?」
「どう見ても、お前の方が力があるだろう?」
男の言葉にグッとくるものがあったが、ピエランジェロはそれを飲み込む。
「私は辺境の街の教会の司祭にしか過ぎません」
「ふん、あの騒々しいのでは話にならん。五月、こいつに書類を見せてやれ」
「え、いいの?」
「アレでは、読んでも意味がわからんだろう」
ギャーギャーと騒ぎ立てる司教は、それでも馬車から降りては来ない。
そんな彼をよそに、会話を続ける2人。ピエランジェロはその会話についていけず、どうしたものかとしていると、女性の方がどこからか書類を取り出し、彼の方へと差し出した。
「えーと、一応、この辺の土地一帯を買い取っているんです。購入元はこちらなんですけど……」
見たことのない文字の羅列に、ピエランジェロも困惑しつつ、最後に女性が指さしたところを確認すると、書類から虹色の光が溢れだした。





