第323話 少しの宗教の話と、物騒なお出迎え
呼ばれたのは村の入口の門。人の集まり具合から、デジャブ。
「あら、早かったのね……五月様、すみません」
「いえいえ……今度はなんです」
この光景は、前に冒険者が来た時の様子と似ている。みんなどこか不安そうだ。
声をかけてきたのはハノエさん。ネドリは今、ダンジョンに行ってるらしい。また肉祭りになるんだろうか。
「どうも冒険者と兵士の他に、教会の関係者がいらしているらしいんです」
冒険者ってだけでもヒヤリとするのに兵士とかって何!?
「教会?」
「ええ、見張り台からチラリと見たんですけど、立派な白いローブを羽織った人がいるんです。たぶん、人族が信仰している『イグノス教』の教会だと思うのですが」
おお~。初めてイグノス様の名前を使った宗教の名前を聞いたぞ!
ちゃんと神様として、崇められてたのね。一応、創造神ということになっているようだ。
「我々はフェンリル様や精霊様を信仰しているようなものなので、人族の宗教とは違うのですけれど」
獣人の村には神殿や教会みたいなものがなかったけれど、今はユグドラシルが、彼らのご神木みたいな感じになっているらしい。確かに、立派に根付いて大きくなってるもんね。
「彼らは何しに……」
「たぶん、私のところに来たんだと思う」
前に冒険者が来た時に、稲荷さんが「確認をしたければ高位の神官を連れてくるように」と言っておいたという。
契約書類を見せればOKとは言っていたけれど、本当なのか、心配ではある。
「稲荷さんいればよかったんだけど、仕方ないか……エイデンは」
「呼んだか?」
「ひゃぁっ!?」
いきなり背後に立って声をかけてきた。
「急に後ろから現れて声をかけるのやめて! 心臓に悪いわっ!」
「おう、すまん」
全然、すまなそうではないエイデン。
今日も、私のお手製の青のセーターを着用中。嫌な気はしないが、ちょっと恥ずかしいぞ。
「で、どうしたのだ……あー、外の連中か?」
「わかるの?」
「ふむ、一人、強い気配のするヤツがいるな……消すのか?」
「違う、違う!」
エイデンに中途半端な説明は危険だ。
私はハノエさんたちも含め、契約相手のことは説明せずに、この土地の契約書のことを話した。
「高位の神官って、どうやったらわかるのかしら?」
「神官の服装が単純に違うんじゃないかしら? 豪華そうなのが偉いんじゃない?」
「あるある~!」
ハノエさんたち、ママ軍団が勝手に盛り上がってるけど、いつまでも外で待たせるのもマズイだろう。
「……エイデン、一緒に来てくれる?」
「当然だ」
チラリとセーターに目を向けたけれど、脱ぎはしないだろう、と諦めた。
気が付けばビャクヤたちまで集まってきている。攻撃とかしちゃダメよ?
ピリピリした空気の中、私は門を開けてくれるようにと、門のそばにいた獣人に目くばせをすると、ゆっくりと門が開いた。





