第321話 ウッドチップとチーズ
エイデンたちが戻ってきた。
ジェアーノ王国の方は、なんとか帝国軍を抑え込んだらしい。ラインハルトくんの家族の方も、怪我などはあるものの、生きているとのこと。特に、ラインハルトくんのお母さんとお姉さんのことが気にかかっていたので、無事であったことに胸をなでおろした。
ただ、まだ油断できない状況とのことで、村でしばらく預かることになった。それを聞いて、ラインハルトくんは、泣きそうな顔になったけれど、歯を食いしばって堪えていた。幼い子供が我慢している姿は、こっちも胸が痛くなる。
そして目の前のエイデンは、今日もランウェイ状態である。
下手なセーターでも着こなせている姿に、なんかちょっと、イラっとする。気に入ってくれてるのは、喜ぶべきなんだろうけど。
「そういえば、ジェアーノ王国は雪積もってた?」
「そうだな。街の中はそれほどでもなかったが、国境周辺はかなり積もっておった」
「あー、そうなんだ」
今日はログハウス周辺の剥き出しの土の上に、ウッドチップを撒いている。
雨が降った後のドロドロの地面と、そこに駆け込んでくるガズゥたちの姿に、なんとかしないとと思っていたのだ。
ビャクヤのところの、ウノハナ・シンジュ・ムクの魔法の練習も兼ねた、薪づくりの時に出来た木片が大量にあったのだ。本来は焚きつけ用にしようかと思ったけれど、それの消費以上に溜まってきたのだ(遠い目)。
うちの敷地の周辺は、こまめに間伐していることもあってか、日差しが入ってくるので、この季節にしては、まだ暖かい方だろう。ここから見上げて見える山の上の方は、まだまだこんもりと木々が生い茂っている(ちなみに、エイデンの城のある山の方は獣人たちが使っている)。
「そうだ、五月」
「うん~?」
「ジェアーノの連中からもらったアレはどうした?」
「あ、アレね」
エイデンがチラチラと私の方を見てくる。私でもわかる。褒めてほしいのだ。
彼の言うアレとは、ジェアーノ王国特産のチーズのことだ。よくテレビでなんかでは見たことのある、あの抱えるようなチーズ。あれに似たものを山ほどもらったのだ(チーズをもらったのもあって、早めにセーターをあげてしまったのだ)
「凄いよね、アレ。削るの大変だけど」
「お、おお」
「でも、エイデンがカットしてくれた分は、火で炙って食べてみたら、美味しかったよ」
「そうか!」
大きいし、固くて切りづらかったから、エイデンにお願いしたのだ。
「あんまり多いから、村の人達にも分けてあげたけど」
「そ、そうか……」
皆に分けてもまだ残ってるので、貯蔵庫に置いて熟成させている。
ああいうチーズ、ここでも作れたらいいんだろうけど、肝心の乳を出す生き物がいない。
「あのチーズって、セゲラーノとかいう生き物の乳でできてるんだってね」
「よく知っているな!」
エメさんが教えてくれたんだけど。ジェアーノ王国特有の生き物らしい。
話を聞くと、どうも見かけは羊のように毛で覆われているけれど、たくさん乳が出る生き物らしい。頭の中で思い浮かんだのは、もこもこと毛で覆われたホルスタイン。
「村で飼えたら、ここでもチーズできるのかなぁ」
「……」
「毛も刈れたら、また違う毛糸ができそうじゃない?」
「……そうだな」
「でも、村の方はまだ荒地だし、餌になるような草も生えてないし、厳しいかなぁ」
「……」
でも、もう少し暖かくなったら、村の空いている畑にでもレンゲの種を蒔いてみよう。
花が咲けば、ミツバチたちも蜜をとりにくるだろうし、葉は餌になったりするんじゃないか。それに土壌改良できたら御の字だ。
「……あー、でも、セゲラーノ自体、こっちの気候にあうか、わかんないか」
チーズは無理でも、乳は飲んでみたい。
ウッドチップをばらまきながら、まだ見ぬセゲラーノに思いをはせる私なのであった。
 





