第320話 無敵なセーター、エイデンとネドリ
エイデンの為のセーターが無事に編みあがった。
裾の方からのグラデーションがいい感じに出来ていて、自分でも満足。編み自体に、売り物になるほどの上手さはないものの、普段使いにはできるんじゃないかな、と思う。
自分用にセーターを編んだ時にも思ったのだが、ホワイトウルフの毛の毛糸なのに、なんか、凄いもこもこっとした感じ。エイデンの身体の大きさからも、セーターはだいぶ大きいのだけれど、あんまり重たくないのも不思議。
今までの他の諸々のこともあるので、念のため、『鑑定』してみた。
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▷聖女の作ったセーター(使用者:エイデン)
物理攻撃無効
魔法攻撃無効
保温
防汚
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……私は、何を作ってしまったんだろうか?
ただのセーターのはずだったんだけど。
そもそも、古龍のエイデンを傷つけられるような者などいそうにもないのに。寒暖差なんかも、エイデンには関係なさそうだなぁ、と、ちょっと思う。
いや、普通に『保温』と『防汚』の効果があるのはいいのか。
とりあえず、エイデンに気に入ってもらえればいいかな。
そのエイデンは、まだ戻らない。
* * * * *
五月が必死にセーターを編んでいる頃、エイデンはネドリといっしょに、ドグマニス帝国とジェアーノ王国の国境の石壁の上に立ち、帝国側の方を見ていた。
そこは以前、帝国側の軍の進軍のために破壊された石壁であり、エイデンによって修復・保護の魔法がかかっている場所である。
「見事に荒れ果てていますね」
「ふんっ、自業自得であろう」
彼らの眼下に広がっているのは、酷く抉れた大地と、黒々と焼けた木々。その外縁も茶色く枯れた木々と、その先は雪に覆われている。
人影もまったくない。
「なんだってこんなことを」
「手っ取り早く石壁を破壊したかったんであろうが、我の魔法が人族程度の魔法で壊れるわけがないのだ」
「……よっぽどの大規模魔法を展開したのでしょうか……それが暴発でもしたか」
「帝国の連中は本当に愚かだな」
フンッと鼻で笑うと、エイデンは高さ10mはありそうな石壁から飛び降りた。その後をネドリも飛び降りる。
「で、お前の方はどうなのだ」
ジェアーノ王国側も、先日の襲撃のために建物がボロボロにはなっているものの、この寒さの中、多くの人間たちが修理に元気に動き回っている。
「一応、領主と接触は出来ました」
元Sランク冒険者のネドリ。その認知度は伊達ではない。と、同時に、エメから渡された手紙とアルフの手甲も役に立った。
「領主も嫡男も、多少の傷は負っておられましたが無事でした。むしろ、奥方と姫の方が」
「……獣人に襲われた方か」
「はっ……我々の姿を見ただけで、恐れられてしまい、話もできません」
「それは、女でもか?」
「ええ。姫は、ラルル(ドンドンの義妹)の姿を見ただけで気を失われてしまいまして」
その反応だけでも、獣人が関わっているのは予想できてしまう。
城に残っていた兵士以外の人々は、気が付いたら牢屋に押し込められていたらしい。
……兵士は言わずもがな、である。
「ふむ。この前来た時に、城にいた者全てに気力を削ぐ魔法をかけておいたが、その中に獣人はいなかったのか」
「はい。城の中にいたのはドグマニス帝国の兵士のみだったとのこと」
「……先行して城を落として帝国に引き渡すと、さっさと引き上げた、ということか?」
「恐らく。獣人の傭兵の可能性が高いかと」
渋い顔のエイデン。
「とりあえず、ラインハルト様の無事をお伝えしたところ、この状況なので、しばらく預かってもらえないかとの打診がありました」
「まったく面倒な……まぁ、五月がいいなら、我は構わんが」
「ありがとうございます。その代わりにと、ヘドマン辺境伯家の家宝の短剣をとのことでしたが……」
「いらんだろう。五月が喜ぶとも思えん。むしろ、食い物とかの方がいいのではないか?」
「やはり、そう思われますか」
2人の頭には、魔物の肉を旨そうに頬張っている五月の姿が浮かぶ。
「はぁ。さっさと村に帰るぞ……そうだ。あの石壁の魔法は1か月くらいしかもたんようにしてある。それも伝えておけよ」
「御意」
ここから先は、帝国とジェアーノ王国との戦いだ。
エイデンの気持ちは、すでに五月のいるログハウスへと向いていた。
 





