第316話 3人の逃亡劇を聞く
男の子は泣くだけ泣くと、力尽きたように眠りこんでしまった。
その代わり、彼のお付きの老人と女性が、彼を守るようにこちらを睨みつけている。
「ネドリ、獣人の国って帝国の戦争に関わってると思う?」
「獣人の国の街に行ってる連中からは、そんな話は聞きません」
時々、買い出しも兼ねて、ギルドの依頼をこなしに行くケニーたちのことだろう。
「うーん、でも、彼らは獣人を見たからこその反応だと思わない?」
「本来、獣王国と帝国は付かず離れずの関係を築いていましたが……先日の村の襲撃もあって、それも怪しくなっていますしね」
そういえば、襲ってきたのは帝国の連中だって言ってたっけ。
面倒なこと、この上ない。
「とりあえず、彼らの話を聞くのが先でしょ」
彼らと会話ができるのは、私とネドリだけ。オババさん以外の他の面々には外に出てもらうことにした。獣人だらけは、彼らにはキツイかもしれないから。
3人はやはりジェアーノ王国の出身で間違いはないようだった。
代表で話をしてくれたのは、母親かと思った女性(実際は乳母だそう)、エメ・アークラさん。老人は庭師のアルフさんというらしい。
そして、彼らの中で、一番身分が高いのが、あの坊ちゃんラインハルト・ヘドマンくん。ヘドマン辺境伯の次男坊らしい(でた! 貴族!)。
なんでも、1週間程前の夜中に、いきなり城が獣人たちによって襲撃を受けたのだとか。
辺境伯も嫡男も兵を率いて国境で守護についていたので、城にいたのは辺境伯夫人と姉、次男のラインハルトくん。
多くの兵たちは国境に行っていて、城が手薄になっているところでの襲撃だったらしい。
辺境伯夫人とお姉さんは、ラインハルトくんを乳母と庭師に預けて、城の中庭にあった転移陣で王都に逃がすはずだったのに、転移の準備中に襲われてしまったらしい。
結局、飛ばされた場所は荒地の真ん中。どこなのか、さっぱりわからないところで、たまたま、小さな村があったので、そこで馬車や食料を手に入れたのだとか。
……絶対、ぼったくられてそう。
会話も通じず、村自体、長居しないほうが良さそうな雰囲気だったので、さっさと離れたらしい。
運がいいのか、それ以降、襲撃などはなかったものの、最初の村以外、それらしい集落も見られず、ただひたすら、道沿いを進んだらしい。そのせいで、食料も尽きていたのだろう。
「たぶん、帝国をずっと南下して来たのかもしれません」
ネドリいわく、うちの山って大きな山脈の端っこらしい。その山脈、帝国側にも接していて、裾野の多くは魔物が多く出没する森なんだとか。
その森の南側はほとんどが荒地となっていて、そこを横断してきたという彼らに、びっくりだ。
『ここは、どこなのでしょうか』
不安そうに聞くエメさん。
ちらりとネドリを見ると、彼が小さく頷いた。
『コントリア王国と、ビヨルンテ獣王国、ドグマニス帝国、この3国を跨る南側にある山脈といえばわかるか』
『……ええ』
『その山脈の南西にある「聖なる山」と言われる山の麓。ここは、狼獣人の村だ』
『!?』
『……そんな遠くに』
アルフ老人が呻くような声をあげた。





