第314話 五月のお手製がオカシイのはお約束
精霊たちの話ではらちが明かなかったので、オババさんの家に行ってみたのだけれど、かなり慌ただしい様子。今、この中に入っても、私は邪魔なだけになりそうだったので、近くにいた獣人に声をかけて、村の中の東屋の方にいると伝えて、その場を離れた。
私は東屋に向かいながら、ガズゥたちを助けたばかりの時のことを思い出していた。
あの時は、ブルーベリーがあった。あれを食べたおかげで、キャサリンやガズゥたちの体力が戻って、それに呪いもなんとかしてくれた。
しかし、今は在庫なし。みんなペロリとたいらげてしまっている。ジャムにしたのも食べきってしまった(食べたのは、私だけではない!)。
東屋に着いて腰を下ろすと、タブレットを手に『収納』に何か入っていないか確認する。
「あ、林檎がある。それに柿にみかん、ワサの実もあるね」
ワサの実以外の、ログハウスや果樹園で育った実の数はそんなに多くはない。
自分で食べられる分だけをとっておこう、と思ったので、他のは獣人たちにお裾分けしてしまっていたのだ。
――でも、あの衰弱した状況で固形物は難しいんじゃない?
ワサの実や林檎のすりおろしたのなら飲み込めるかもしれないけど、肝心のおろし金はログハウスのキッチンだ。
他に何かないかと思って、目についたのは。
「ジャムをお湯で溶かすとか、あり?」
梅ジャムとワサの実ジャム。
これを作ったのは、つい先日のこと。普段使いは冷蔵庫に入れておいたので、これはストック用。
エイデンが採ってきたワサの実自体には、なんの効果もついてなかったけれど、ログハウスの敷地の梅の木で採った梅の実だったら、ブルーベリーと同じような効果があってもおかしくはないはず?
テーブルに、『収納』から取り出した魔道コンロを置く。1台はログハウスで常時使う用で、これは外で調理する時のためにしまっていた物だ。
同じく『収納』しておいたペットボトル入りの湧き水を小鍋に入れて、沸かす。精霊印の湧き水なので、悪いモノは入っていないはず。
そして『収納』していた梅ジャムを取り出して『鑑定』。
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▷聖女の作った梅ジャム
爽やかな酸味と甘味が特徴。聖女の愛情たっぷりジャム。
体力回復(大)
魔力回復(大)
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そっと画面を閉じ、天井を見上げる。
……なんか色々突っ込みたい。
愛情って何。
いや、作ってる時は真剣に作ってたけどさ(ふとエイデンの姿が頭をよぎった気がしないでもない五月)。
いやいやいや、そんなことよりも!
この効能があるなら、と思った私は、『収納』から取り出した紙コップに梅ジャムを入れて、お湯で溶かす。
そして再び『鑑定』。
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▷聖女の作った梅ジャム茶
爽やかな酸味と甘味が特徴。聖女の愛情たっぷり梅ジャム茶。
体力回復(中)
魔力回復(中)
体力強化(微)
治癒力向上(微)
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ううん?
単純にお湯でわったから、能力がもっと下がるかと思ったけれど、そこまで下がらなかった。これは嬉しい誤算。
それに(微)と書かれているけれど、追加の効能もある。これは湧き水の効能かも。さすが精霊印。
私はすぐさま、お茶入りの紙コップを『収納』して、オババさんの家に走った。





