第313話 来訪者たちと、精霊
飛び出してきた火の玉は、2,3メートル程飛んで消えた。
「あっぶねぇなぁ……って、おい、大丈夫か!?」
火の玉を避けた村人が慌てた声をあげて、そのまま乗り込んだ。その様子に、他の獣人たちも馬車へと駆け寄る。
「なんて酷い」
「おい、誰か、オババ呼んで来い!」
そう言って馬車から降りてきた村人の腕の中にいたのは、気を失っているガズゥたちと大差ない男の子。その後から抱えられてきた人がいる。男の子の母親かと思われる女性と、老人。彼らも意識はないようだ。
この3人に共通しているのは、獣人たちに比べても着ている物は良さそうなのに、顔色が悪くて酷く痩せているということ。
「五月様!」
「う、うん」
村の結界内へと入るのを認めると、
「ほれ、うちに運べ」
オババさんの声で、みんな一気に動き出す。
そんな彼らを見送りながら、私が気になっていたのは、老馬の方。
彼? の周りに、凄い数の精霊たちが集まってるのだ。色の感じだと風の精霊の数が多い。
「どういうこと?」
こっそり、私の近くにいた精霊に声をかけると、その子が答える前に、老馬の方から精霊たちがふよふよと私の方へと集まってきた。
『おお~、やっぱり、いとしご、いた~』
『いとしご~?』
『せいじょさまだろー?』
『どっちでもいい~』
全然、会話にならない。参ったな、と思ったら。
『あんたたち、さつきのしつもんにこたえなさいよ』
私の足元にいた末っ子3匹のうちのウノハナが、小さく唸りながら言った(他の2匹は、のんきに日向ぼっこ中)。
『なんだ、いぬっころ』
『いぬっころ、いぬっころ』
『いぬじゃないわ! ホワイトウルフよ!』
『やっぱり、いぬっころじゃん』
ギャーギャーと言い合う様子に、ついイラっとして「いい加減にしなさいっ!」と、大きな声を出してしまう。
「ふぅ、いいから、説明して」
『……おこるとこわーい』
『こわーい』
「本気で怒るわよ」
私の怒気にあてられたのか、シューンと老馬の方へと戻って固まる精霊たち。
一方で、私のそばにいた精霊たちは呆れている。
『まったく、よそものはこれだからこまるよね~』
『さつき~、わたしたちにまかせて~』
よそもの……ということは、あの精霊たちは、この山周辺にいる精霊とは別ということ?
老馬の方へと飛んでいく精霊たち……あれ? なんか、うちの山の精霊たちの方が一回りくらい大きい。
わちゃわちゃやっているのを待っていると、少しして、大きな精霊が1匹だけ戻ってきた。
「どうだった?」
『あのね、あのこたちは、とおいとこからきたんだって』
「遠いって、どれくらい?」
『わかんない。でも、もといたばしょから、ひゅんってとばされたんだって』
「とばされた?」
『そー。で、あんぜんそうなばしょをさがして、おうまさんといっしょにいたら、ここについたんだってー』
……まったくわからん。
とりあえず、獣人と会話が成り立っていなかったのを見ると、言葉が違うのだろう。そのことからも、この辺の人ではなさそうなのは、わかった。
「これは、私が通訳しないと、まずい状況よね」
彼らに何があったのかは予想もつかないけれど、なんか嫌な予感しかしない。
私は近くにいた獣人に馬車のことを頼むと、オババの家に向かうのであった。
 





