第312話 年越しも、ただ平穏な日……で終わらない
大晦日の今日、凄く寒いけれど、見事な快晴が広がっている。今年は雪が降らずに終わりそうだ。
午前中、家事を終え、軽く昼を食べ終えてから、立ち枯れの拠点に向かう。
山の中とはいえ、スーパーカブで行くから、風が冷たい。私の後を、末っ子3匹が追いかけてくる。何が楽しいのかわからないけど、賑やかだ。
立ち枯れの拠点に着くと、スーパーカブを止めて、畑の様子を見る。成長ペースが落ちたとはいえ、それでも早くに育ってしまうので、ガズゥたちが収穫してくれるのは助かる。その上、配達までしてくれるんだから、ありがたい。
その代わり、私の分を除いた分は、お小遣い代わりにお裾分けしている。『収納』してもたまる一方だしね。
今日は、ガズゥたちの姿は見えない代わりに、ママ軍団があちこちで作業しまくっている。
そう、エイデンも入れるようにしたように、ママ軍団と老人たちにも、畑仕事のお手伝いをお願いすることにして、結界の中にも入れるようにしたのだ。
といっても、彼らも遠慮があるのか、ログハウスの敷地まで来るのは、ガズゥたちだけ。
私としても、ずかずか入ってこられるのは嫌なので、これくらいの距離感がいい。
「お疲れ様~」
「あら、五月様」
鶏小屋で、腰を屈めて卵を拾っていたのは、テオママ。
立ち枯れの畑の面倒だけでなく、鶏の面倒も見てもらってたりする。おかげで、助かること、助かること。
なにせ、増えた。
鶏自体が。
卵があったら、すぐに集めるようにはしていたんだけど、どうも、見落としている卵があったようで、なんか、増えてしまっていた。
そして、卵の大きさに比例して、鶏のデカいこと。
鶏と言っていいんだろうか、というサイズ。そのデカい鶏の卵の大きさは変わらなかったからよかったけど。産まれるたびに大きくなって、そのうちビャクヤサイズとかになったら、恐ろしすぎるものね。
養鶏場でも用意してもらうか、あんまり増え過ぎたら、鶏自体を食用にしてもいいかもしれない。
「五月様!」
にこやかに手を振るハノエさん。
手にしているのは、ローズマリーの枝。地植えしたローズマリーは、鉢植えに比べても、かなり大きく育っている。
多少切ったところで、すぐに育つようで、むしろ、切って、と言いたいくらい。
料理にも使えるという話もしたけれど、なぜかオババさんにも欲しがられるという。薬師の腕がなる、と喜んでいたようなので、きっと何かに使えるのかもしれない。
「そういえば、挿し木って、どうなりました?」
ハノエさんが、オババに頼まれて、彼女の家の周りに植えられないか、と相談されたのだとか。なので、鉢植えや挿し木の話をしたのだ。話の様子では、まだ小さな鉢に植えてみたばかりで、まだわからないとのこと。上手くいくことを祈る。
ママ軍団たちと畑やハーブの話をしていると、村の方が騒がしいのに気が付いた。
この時間は、外に行っている連中が戻ってくる時間ではない。
「何かあったのかしら」
「行ってみましょ」
ネドリは今日はダンジョンに行っているとのことで、村のこととなるとハノエさんが仕切らないとならない。
村の入口付近に人が集まっている。門は開いているようだ。
「どうしたの」
ハノエさんの声に、皆が一気に振り向く。
その先にあったのは、ボロボロになった馬車。痩せ細った老馬が引いてきたみたい。
馬車の中を覗いていた村人が、困ったような顔でハノエさんの方へと顔を向ける。
「ハノエさん、中に」
「……人族かしら」
「ああ、そうなんだけど」
どういう状態なのか、不安になる。
「おい、乗っていいか?」
『近寄るなっ』
「そのナイフをしまってくれよ」
『乗るな!』
「あー、何言ってるかわかんねーけど、とりあえず、乗るぞ?」
聞こえてくるのは、甲高い子供の声。
子供の声を無視して、乗り込もうとしている村人。
『乗るなと言ってるだろ! ファイアーボール!』
いきなり、馬車から火の玉が飛び出してきた!
何事!?





