第309話 異世界の時間と、クリスマスの話
今年の冬は、去年よりも天気が悪くなる日が多い。
今日も、みぞれまじりで、寒いことこの上ない。ガズゥたちに言わせると、前の獣人の村のほうが、もっと早くに雪が降りだすらしい。
気が付けば、あと1週間もすればクリスマス。1年が過ぎることの早いこと。
しかし、当然、こちらにはそのような風習はない。それに、年末年始の行事らしいものもないそうだ。年越しは、家族で大人しく過ごすのが一般的なのだとか。
ちなみに、時間や曜日はあちらと変わりがないらしい。
365日、1週間は7日、1日24時間。
曜日の言い回し(月曜日~日曜日)に関しても同じ。単に、翻訳機能のついたイヤーカフのせいかもしれない。
ただ獣人の村なせいか、かなりアバウトな感じは否めない。
時計のような物もあるにはあるが、高価なのか、獣人の村では村長の屋敷にある置時計だけらしい。その時計もちゃんと使っているかどうか。なにせ、お昼なんて、腹時計なのだもの。
去年のクリスマスは、一人でホットケーキでクリスマスケーキもどきを作った。
今年は薪ストーブのオーブンもあるから、本格的なケーキを作ってもいいかもしれない。レシピはスマホに動画をダウンロードしてある。『収納』のおかげで、牛乳のような日持ちのしない物も保存してある。
そういえば卵は鶏のおかげで常時手に入るけど(相変わらず、大きな卵)、牛乳とかは牛がいないから手に入らないのは、厳しい。その手の動物とかって、街とかで売ってるんだろうか。いや、牧場みたいなのがあれば、そこから買取できないのかな。
そんな諸々なことを考えながら、今はログハウスの中でジャムづくりの真っ最中だ。今日は梅ジャムと、ワサの実のジャムに挑戦中。
「くりすますとは、なんだ?」
とろ火で鍋の中身をゆっくりかきまぜている私の隣で、鍋を覗き込みつつ聞いてくるエイデン。
小さなログハウスの中、彼の大きな体のせいで、圧迫感が半端ないんですが。
はい、今ではログハウスの中まで入ってきてますよ。大概は暖炉のそばで寝そべっていて大型犬みたい。私の作業の邪魔をしなければいいことにした。もう慣れた。自分でも慣れるの早すぎ、と思うけど(遠い目)。
ノワールはビャクヤたちと一緒に厩舎の中。末っ子3匹に纏わりつかれているらしい。
「あちらの世界の神様の誕生祭ですよ」
つい先日、ガズゥたちにクリスマスの話をしたのを、エイデンも聞いたらしい。
神様の誕生日にプレゼントを渡す風習があると話したら、
「ほお。それはよい話を聞いた!」
目を輝かせたエイデン。かと思ったら、よし、と気合を入れてログハウスを出て、どこかに飛んでいった。こんな天気なのに、元気だ。
……うん、いるだけで感じる圧がなくなった。
さて、プレゼントなんて話をしてしまったからには、何かしら期待されてるかもしれない。エイデンに限らず、ちびっ子たちもだ。
しかし、今更、あちらには買い出しにはいけない。もうキャンプ場は閉まってるし、戻る道も封鎖していることだろう。
となると、手元にあるもので何か作るしかないんだけど。
これから短期間でとなると……アクセサリーくらいだろうか?
鍋の中身を混ぜながら、ニヨニヨ笑いつつ、何ができるかなぁ、と考える私なのであった。





