第307話 泥まみれと、エイデン
翌日は気持ちよく晴れた。寒いけど。
久々の天気のよさに、溜まった洗濯物をやっつける。寒くて、冷たくて、指先が痛い!
これが終わったら、久しぶりに立ち枯れの方の様子を見に行って、その後にでもジャムでも作ろうか。
『おはよう』
『おはおは~!』
『……おはよ』
全部干し終わって、満足しているところに、厩舎の方から、びちゃびちゃの地面の上を、元気に走ってくるビャクヤのところの末っ子3匹。
見事に白い毛に泥が跳ねまくって、泥でドット柄になっている。
会話ができるようになったところからもわかるように、今では3匹とも私の従魔となっている。
しっかり者の『ウノハナ』(雌)、
自由気ままな『ムク』(雄)
のんびり屋の『シンジュ』(雌)
できるだけ、響きが重ならないように悩みに悩んでつけてみた。
しかし! お願いだから、物干しのところまで来ないで!
『こら、五月様の邪魔をしない!』
シロタエの声で、固まる2匹と、気にせず駆け寄ってきて……抱きついた1匹。見かけは同じでも、絶対、これはムクだろう。
べちゃりと、ネルシャツの胸元に、盛大に足跡をつけやがった!
「ぎゃーっ!」
『!?』
思わず叫んだ私に、抱きついていたムクが慌てて耳を伏せて、シロタエの方へと逃げていく。
『も、申し訳ございませんっ!』
「あー」
慌てて謝ったシロタエにパシンッと叩かれて、びしゃりと地面に突っ伏しているムク、
ぬかるんだ地面のせいもあると思えば、これ以上文句も言えず、子供だしなぁ、と諦める。ここも砂利かウッドチップでも敷き詰めた方がいいかもしれない。
「いいよ、いいよ、また洗えばいいし……でも、気を付けてよね?」
『ごめんなさ~い』
ムクの情けなさそうな言い方に、思わず苦笑いをしていたら。
ズドンッ!
『五月ー! どうしたー!』
「げっ」
大きな古龍の姿のエイデンが、ログハウスの結界の真上に現れて……結界に張り付いた。
『無事か! 何があった!』
エイデンがどこにいたのかは定かではないが、この山の中ではないのは確かで、たかだか私の叫ぶ声程度で飛んでくる(比喩通り)とは。
『五月!』
必死な様子の古龍に、一瞬固まるも、「だ、大丈夫よ~」と返事をする。
『何があった!』
「こ、これこれ、ちょっと汚れちゃって」
『そ、そうか、なんだ、汚れただけか……よ、よかった。じゃ、じゃあ、も、戻る』
少し照れくさそうな感じのエイデンに、なんか、心配かけちゃったな、と思う。
あんな叫び声程度で、と思う半面、それだけ気にかけてくれてるエイデンに、ありがたいという気持ちが強くなる。
ゆっくりと離れていく彼の後ろ姿に、私の気持ちは固まった。
「あ、後で獣人の村に行くから、来てくれる?」
私の声に、振り向くエイデン。
『う、うん?』
「お願いね!」
コクリと頷いて、彼の城のある山の方へと飛んでいった。
ちなみに、シロタエと3匹は、びびって厩舎に逃げ込んでいたことを、付け加えておく。





