第306話 冬の手仕事 ―果実酒作り―
夕食の後、ワサの実を皮つきのまま、薄い輪切りにしてみた。
皮の色は梨のような茶色がかった緑。食感は、サクッ。味の感じはやっぱり、林檎っぽい。
「やだ、これ、止まらないヤツだ」
かなり大きい実だったのに、あっさり、ぺろりだ。
この薄切りを乾かして、チップスっぽくもできそう。風の精霊にお願いしたら、すぐ乾燥してくれそうだ。
明日、天気がよければ、外のテーブルでジャム作りに勤しんでもいいかもしれない。
しかし、この量のワサの実のジャムを作って、保存しておく瓶がない。
「そういえば、梅酒がそろそろ無くなるか」
キッチンの棚にしまってある、梅酒の大きめな瓶。
保存庫の出入口のそばに植えた梅の木になった梅。あまり数は多くなかったけど、梅酒にするくらいには実っていたのだ。
作ってまだ半年もしてないのに、ついつい飲んでしまって、あと少しだけになっている。どうせだったら、これを別の瓶に移し替えて、新たにワサの実で作ってみるのもいいかもしれない。
「あー、でもホワイトリカーと氷砂糖もないんだよなぁ」
この冬に果実酒を作るつもりはなかったもので、買い忘れていた。
「お酒はそういえば、ドワーフたちにと、色々買い込んではいたけど」
全部出してしまうと、一気に全部飲まれてしまうので、日本酒とブランデー、ワインを『収納』しておいたのが、まだ少し残っているはず。
氷砂糖の代わりには、ハチミツでも使ってみようか。
――で、あれば、さっそく梅酒の瓶を空にせねば。
棚から取り出してみると、漬けてある梅の方が多いくらいになっていた。とりあえず、梅を取り出し、残っていた梅酒を漉して別の小さな瓶に移す。
さて、この梅はどうしようか。
梅ジャムにでもしてもいいかもしれない。とりあえず、ボウルに分けて、『収納』しておこう。
瓶を綺麗にして、煮沸消毒しておく。
ワサの実を櫛切りにして、種だけとりはずして、瓶に詰め込んでいくんだけれど……え。2個分でいっぱいになっちゃうんだけど。
「し、仕方ないか。ハチミツいれて……ブランデーにしてみようか」
1本丸々入れて、ちょうどいい感じ。この使い方、ドワーフたちが知ったら怒られるかな。もったいないって。
とりあえず、日が当たらない棚へとしまい、まだ残っているワサの実の山に目を向ける。
「……ホットワインでも作るか」
小鍋に赤ワインを入れて、その中にざく切りにしたワサの実を入れて温める。シナモンスティックでもあればいいんだろうけど、今はないから仕方がない。最後にハチミツを入れてかき混ぜる。
マグカップにワサの実ごと入れて、フーフーと冷ましながら、一口。
「ん、甘っ」
これはハチミツの甘さというよりも、ワサの実の甘さだと思う。もしかして火を通すと甘さが強くでるのかもしれない。
赤ワインのおかげで、身体がポカポカしてきた気がする。
「残りは、また今度にしよう」
全然減っていないワサの実の山を『収納』すると、私はキッチンを片付け始めたのだった。





