第304話 雨の訪問者
外はすでに薄暗い。こんな天気に誰が? と思いながら、慌てて傘をさして外に出る。
大きな木の扉を開けると、何の毛皮かわからないけれど、フードのついたコートを着た、ずぶ濡れ状態のガズゥ、テオ、マルが、白い息を吐きながら、満面の笑みで立っていた。
よく考えてみれば、うちに来れるのは、稲荷さんを除けば、ちびっ子たちしかいないじゃない。
「何やってんの! 早く入って!」
「あ、でも、すぐに戻るし」
「そんなずぶ濡れで!? いいから、3人とも入って!」
すぐ帰るって言ったって、このずぶ濡れ状態見ても、『すぐ』のわけがない。
ログハウスの方へと背中を押す。床が濡れるのも構わず、ガズゥたちを家の中に入れると、バスタオルを探し出して、放り投げる。ガズゥたちは、おずおずとしながらも、玄関先で身体を拭いている。ちょっと、カクカク震えてるじゃないのっ!
「ほら、靴脱いで、暖炉の前に来なさい」
「ふあー、あったかい!」
ぐちゃぐちゃに濡れた靴とコートを脱いで、暖炉の前に立ったマルが嬉しそうに声をあげる。尻尾が濡れて細くなっちゃってる様子が、こんな状況だけど、なんとも可愛いと思ってしまう。
「あの、五月様、本当にすぐに戻るんで」
「ダメよ、今、ホットミルク入れてあげるから、ちょっと待ってなさい」
マグカップを3個、棚から取り出し、『収納』から牛乳を出して鍋にいれる。この前採ったハチミツを温まった牛乳に入れて、マグカップへ。
戻らなきゃ、と言っていたガズゥも、ホットミルクを口にしたら、顔がほころんでいる。
「こんな雨の中、いったいどうしたのよ」
人心地ついたようなので、私はガズゥに問いかけた。
「あっ!」
ここに来た目的を思い出したガズゥが、声をあげるとマグを床に置いて、腰に下げていたバッグに手を突っ込んだ。
「これっ!」
腰のバッグはマジックバッグだったようで、そこから取り出されたのは。
「これ、何?」
「エイデン様が、ダンジョンで採ってきたって」
リンゴ? 梨? いや、それにしてはデカい。何せ、ガズゥの顔と大差ないのだ。それを、どんどん床に置いていって、一山できてしまう。
「あとー、これも」
白くて細い糸の束。絹糸だろうか。それも果物? の脇に並んでいく。
「で、あとは、これ」
ざらりと音をたてて出てきたのは、剥き出しの真珠? の首飾り。形は多少歪だけど、一粒一粒が大きい。
それにぶっとい金でできた指輪には、黒い石が嵌っている。オニキスか何かだろうか。
あとはカメオのようなブローチ。残念ながら、あまり精巧なデザインではないものの、たぶんドラゴンと思われる意匠のもの。
正直、もらっても着けていくようなところはないんだが、と思ってしまう。そもそも、あちらの世界には持っていけないし、持って行けたとしても、デザイン的にちょっと、と思ってしまうもの。
「……これで全部?」
「はいっ!」
「で、これをエイデンが持って行けって?」
こんな天気の中、子供たちに言ったのか、と思ったら怒りがわく。
「ち、違いますっ! 俺たち、その、五月様が喜ぶかと思って……」
エイデンからのプレゼントを喜ぶ私を想像したら、すぐに出かけてしまったのだと。
なんでも、ガズゥたちも、この天気の中、ダンジョンに行ってたのだという。それをエイデン(ドラゴンバージョン)に村まで運んでもらったんだとか。
あー、テンション上がっちゃったからか。
「今度、五月様に会う時でいいって言われたけど、俺たち、すぐに渡したかったんです!」
「まったく……ノワールにでも頼めばよかったのに」
「あー、ノワールはエイデン様のお城にさっさと帰っちゃって」
「ノワール、さむいって」
「さむいのやーだって」
「はぁ!?」
最近はうちのログハウスの中に入るには大きくなっちゃってて、ログハウスの中では窮屈そうで、あまりうちに居つかなくなったノワール。
仕方がないとはいえ、従魔のくせに、全然、従ってる感ないんだけど。
しかし、毎回、子供たちに渡されて、こんな天気でも来るようになってしまうのは、ちょっと申し訳ない。
そろそろ、エイデンも結界の中に入るのを許してもいいかもしれない。
……けして、餌付けされたわけでは……ない。





