第301話 冬の手仕事 ―布を染める―
老人たちが毛糸を染めるのに夢中になっている頃、ママ軍団は布を染めることに盛り上がっていた。
行商人が売っていた布は、様々。高級そうな絹みたいな布もあれば、ゴワゴワした感触の布もあった。柄モノはないものの、綺麗な色のついた布はそこそこいい値段だったらしく、手が出なかったらしい。
ただ、普段私が着ている服(ジーンズ生地だったり、チェックのネルシャツ等)を見慣れてしまったせいか、やはり色鮮やかな生地が気になっていたそうだ。
そこで染料の登場だ。いや、正確には、老人たちが染めだした毛糸を見たら、布も染めたくなって挑戦したのが始まり。
そう、染料が減ったのは、彼女たちの布でも使ってたから。なくなるのも早くなる。
「まぁ、まぁ、まぁ!」
「綺麗に染まったねぇ」
今手にしているのは、綿っぽい生地だ。この生地だったらシャツとかにしてもいいかもしれない。しかし。
「……見事な赤だね」
いや、うん、色は悪くはない。
ただ、見事に赤い。運動会で使う紅白の帽子の赤、といえばいいだろうか。しかし、この色を普段着に使うとは。下手すると、戦隊モノのレッド役みたいな感じになっちゃわない? 言ったところで理解はされないだろうけど。
「ガズゥやネドリのシャツにいいかも」
嬉しそうなハノエさんに、私は何も言えない。
というか、周り皆が肯定的なんだけど、もしかして、獣人って原色好き? 派手好きなのか?
やる気になっているところに水を差すのもなんなので、笑ってごまかすことにする。好みは人それぞれだしね。
出来上がったシャツを見て、狩りにこの色は目立ちすぎる、とネドリたちに言われたママ軍団は萎れている。私でも想像はついたけど、盛り上がっちゃってた彼女たちには、そこまで頭が回ってなかったか。
そんな中、ネドリが赤シャツを着て見せてくれたんだけど。
――これで黒の革のパンツにバラでも咥えてたら、フラメンコでも踊りそうだわ。
などと思ったのは内緒。
しかし、それなりに似合うので、家で着れば、と言ってあげたら、そうですね、なんて照れくさそうにしてて、イチャイチャしだした。
……ちょっと羨ましいとか思ってないし。
それにしても、彼女たちのシャツ、手縫いであそこまでのクオリティって、流石だなぁ、と思う。私の実力は……推して知るべし。
せっかくなので、私の少ない知識から、蛇腹に折り畳んだりした後に、紐で縛った状態にして染めるやり方を教えてみた。
無地しかなかったので、ちょっと華やかな感じになるんじゃないかと思う。
「五月様のシャツのような柄にするには、どうしたらいいんです?」
染めあがった布を干すのを手伝っていると、テオママから質問された。
今着ている私のシャツは赤系のネルシャツ。赤や黒、白などのチェック柄。さすがにこれは染めでは再現はできない。
「これは糸から織らないと無理だと思うよ」
「おる?」
「先に糸を染めてから、機織りで織るの」
「まぁ……機織りの道具は、ないわねぇ」
残念そうなママ軍団。
さすがに私も機織りの仕組みまではわからない。
「ヘンリックさんあたり、知らないかしら」
マルママの言葉に、ママ軍団はドワーフたちの棲み処に突撃していった。
それよりも、機織り機を作ってもらう前に、糸、どうすんのよ、と思いながら、彼女たちの後を追った私なのであった。





