第300話 冬の手仕事 ―毛糸を染める―
行商人たちは、3日ほど村に留まった後、獣王国の方へと向かっていった。
村人たちは、いい買い物ができたようで、みんなホクホク顔だ。前回、胡散臭いエルフが来た時よりも品数が多かったのもあるだろう。
面白かったのは、エイデンがバカでかい熊(たぶん、熊だと思う)を狩ってきたのを見て、行商人チームのみんなが腰を抜かしていたこと。うん、熊っていうには、かなりデカかったもんなぁ(遠い目)。
「五月様、これ、どうですか」
「わ、すごい綺麗な色になりましたね」
ホワイトウルフの毛で作った毛糸。当然、白一色しかないので、染色できないかなぁ、と思っていた。そしたら、たまたま、行商人たちの商品の中に染料があったのだ。ほんとに、色んな商品を持ってたんだなぁ、と感心する。
色は、青・赤・黄の3色。信号機かよ、と内心、突っ込みつつ、これで白オンリーから脱却できる、と思ったのも事実。
ドッグラン脇の作業小屋のそばで干されているのは、毛糸の束。
私の目の前にあるのは、綺麗なスカイブルーに染めあがった毛糸だ。
「もっと濃い色とかに出来ませんかね」
「そうですねぇ。ちょっと色々挑戦してみましょうか」
彼らは毛糸そのものを染めることから始まり、毛糸にする前の状態から染色してみたりと、なかなかにアグレッシブだ。試行錯誤して糸を作り上げていくのが楽しいらしい。
しかし、今回買った染料は、そんなに量は多くなかったようで、残り少なくなってしまった。どんだけ染めたのよ、というのは突っ込まないでおこう。
そして、染めにハマった老人たちは、他にも染料になりそうなものがないか、山の中を探しに行きはじめた。
季節が季節だったら、色様々な花があったりするのだろうけれど、そう上手い事は行かないようだ。春になって、色んな花が咲き始めたら、違ってくるかもしれない。
しかし、染める材料は花だけではないのを私は知っている。
知っている、と言っても、雑学というか小耳に挟んだ程度だけど。
「はぁ、タマネギの皮ですか」
「そう、それに、ミカンやリンゴの皮でも染められたはず」
昔、何かのテレビ番組で、草木染のことをやってたのを見た記憶があったのだ。その時に、捨てちゃうモノでできるんだ、と感心したのだ。
今まさに、老人たちが同じようなリアクションをしているので、つい、ニヤッとしてしまった。
元々、ミカンとリンゴの皮は乾燥させて、お風呂に入浴剤代わりに使ったり、紅茶といっしょにしてアップルティーにしてもいいかな、と思って『廃棄』せずに、『収納』しておいたものがある。
その時は草木染をやろうなんて思ってなかったけど、せっかく使えそうなら、やらないともったいない。
結果。それぞれに美しい色に染まったのには感動。
タマネギの皮は濃いめの黄色に、ミカンの皮は薄いレモンイエロー、リンゴの皮は薄いサーモンピンク。優しい色合いのものが出来上がった。
私が『収納』してとっておいた皮の量は、たいした量にはならなかったので、染めた毛糸も多くはないし、ガズゥたちのような男の子は使わなそうな色だから、個人的に使う分くらいにしかならなかった。
「おお、いい色ですな」
「染料とはまた違った風合いですねぇ」
「こりゃぁ、タマネギの皮はとっておかねぇとなぁ」
「他の野菜の皮とかだったら、どうなるのかねぇ」
――老人たち、染めるのもいいけれど、肝心の毛がないと染めようがないと思うの。
ドッグラン脇の小屋の在庫は、ほとんどなくなっていることに気付いているのか、心配になった私なのであった。





