<冒険者たち>
目の前にある大きな木の扉の前で、その扉が開くのを待っている5人の冒険者たちがいる。中にいる者たちから、しばらく待つように言われたので、その場で待っている状態だ。
彼らはケイドンの冒険者ギルドからの依頼のために、村までやってきたCランクの冒険者だ。その内容は、『荒地に出来たという村の確認と、できれば村の状況の把握』だった。
村の周囲は、魔物除けの木と言われるマギライで囲まれ、その中には畑らしきものが確認できている。その奥にある石壁の中に村があると思われ、物見櫓の存在も確認した。
あちこちの街や村を移動している冒険者である彼らから見ても、一般的に田舎にある村の規模ではなかった。
飛びぬけて背が高く、大きな盾を背負っているリーダーが、村を囲う石壁を興味津々に見つめている。
「あの石壁の高さなら、軽くジャンプすれば掴めそうだな」
「そんなの、俺だってできるさ」
身軽な皮鎧を着ている少年が口をとがらせながら抗議する。
「余計なことをするなよ」
短弓を背負っている細身の男が、二人を諫める。
そんな3人の後ろで、寄り添うように立っているのは、魔法使いのような黒いローブを着た女性と、対照的に白いケープを羽織った女性。
「まずい気がするの」
「……何か、感じる?」
おどおどしているのは白いケープの女性。彼女は、村の中にいる多くの精霊たちの存在感を感じ取っていた。しかし、それが何なのかまでは、説明できなかった。なぜならば……彼女は今まで、精霊の存在を感じ取ったことがなかったから。
その彼女が感じ取れるくらい多くの精霊が、この場に集まっているということでもある。
そんな彼らの目の前で、ゆっくりと門が開いていく。
「誰か出てくるな」
リーダーの言葉に、全員が若干緊張する。
門は大きくは開かれず、隙間から一人の男が現れた。
見たことのない上着(カーキ色のダウンベストに緑系のチェック柄のネルシャツ)を着た、黒髪に細目の、ほっそりとした男。どう見ても丸腰で、目に見える武器のようなものはない。
「あなた方ですか。冒険者ギルドからいらしたというのは」
その男が笑みを浮かべながら声をかけてきた途端、白いケープの女性が、声もなく、いきなり腰を抜かす。
「ちょ、どうしたのよっ」
黒いローブの女性が慌てて彼女を抱え込む。
「おやおや、そちらの女性、大丈夫ですか?」
男の声に、白いケープの女性は返事もできない。
「すまん、できれば、少し休ませてもらえないだろうか」
リーダーは予想外のことに、若干慌てたものの、この状況が村の中の確認ができるチャンスかも、とも思った。
「うーん、申し訳ありませんが、見知らぬ者を中に入れるのはちょっと」
「だったら、ギルドカードをみせる」
「いえいえ、それを見せられても、それが本物かどうかなんて、私にはわかりませんから」
にこにこと笑いながら、あっさり拒絶する。
「それで、冒険者ギルドの依頼というのは、村の確認でしたっけ。とりあえず、人は住んでますんで、確認できたということで、お引き取りを」
「そうはいかない。そもそも、ここら辺は荒地な上に、山の方では魔物も強くて人が住めない場所だったはず。どういった者たちが住みついているのか、報告しなくちゃならないんだ」
「そうは言っても、こうして住めていますしねぇ」
「村の中も確認させて欲しいんだ」
「お断りします」
「なんだと」
リーダーの不穏な空気に、他のメンバーもつられるように厳しい顔つきになる。ただ一人、白いケープの彼女をのぞいて。
「そもそも、ちゃんと、ここは買い上げられた土地であり、私有地です。貴方方は、無断で入り込んでいるんですよ」
「なっ」
「ちゃんと確認したければ、神官を連れてきなさい。程度の低い者じゃダメですよ。高位の神官ですよ。さぁ、さっさと帰ってくださいな」
男の最後の言葉に、全員がゾクッと背筋が寒くなる。
なぜ、こんな見るからに弱そうな男に、と思いながらも、彼らは本能的に逆らってはいけない、というのを感じ取った。
荒地をギルド保有の幌馬車が走っていく。
その中には、先ほどの冒険者たちが青い顔で座っている。
「ありゃぁ、ヤバい」
ぼそりと声を出したのは弓の男。
「なんなんだ、あの男。リーダー、あれは、人間か?」
「……わからん。わからんが、あそこで無理やり入らなくて正解だったかもな」
「なんで?」
「お前、気付かなかったのか? 男がドアの中に戻る瞬間、たくさんの殺気があふれ出てたのを」
「え?」
「リーダーの影になってたからわからなかったんじゃない?」
黒いローブの女性は、疲れ果てたような声で言う。
「あれ以上、あそこにいたら、魔物に殺されてたかも」
「え、でも、マギライで守られてるんじゃ」
「外からじゃない。村の中からだ。ありゃぁ、相当数の強い魔物がいるぞ」
「何それ」
「あそこはテイマーの村なのかもしれんな」
「そ、それだけじゃないわ!」
白いケープの女性が涙目になりながら、甲高い声で叫ぶ。
「あそこは、絶対、手を出しちゃダメよ! 出したら……出したら……私たち、精霊に見放されるわ!」
村から離れるために幌馬車に乗ろうとした時、白いケープの女性の耳元で囁く子供のような声が聞こえた。
『てをだしたら、どうなるか、わかってるな』
『おまえたちをゆるさない』
『みずはなくなり』
『つちはやせ』
『しょくぶつはかれていくだろう』
『おまえたちはどちらをえらぶだろうな』
「絶対、絶対、ダメよ……」
白いケープの女性は、魘されるように呟き続けた。





