第293話 完成品と糸車と、厄介ごと
綺麗に片付いたテーブルの上には、ロウソクとハンドクリームが並んでいる。
紙コップから剝きだしたロウソクを掌に載せて、じっくり見る。ちょっと上の部分が歪んでるのはご愛敬。当然、柄などないシンプルなもの。
ロウソクに火を着けてみると、ジジジジッという音とともに、小さな火が灯った。
「おお、ちゃんと燃えた」
匂いはほのかに甘い匂いがする……気がする。気のせいかもしれないけど。
昼間にロウソクを灯しても、雰囲気はイマイチ。これは夜にでも、もう一度部屋の中でやってみるつもりで、一旦、火を消す。
今回は紙コップを使ってやってみた。そういえば、ネットで調べた時、何度もロウに紐を浸して、太くしていくとかいう作り方を紹介したページもあった。すごく手間暇かかりそうだけど、試してみてもいいかもしれない。
「あとはハンドクリームだけど……ん、匂いはちゃんとしてる」
1個1個手に取り、匂いを確認。個人的に好きなのはスイートオレンジ。指先でクリームをとり、そのまま手の甲にのせて伸ばしてみる。もう少し、べたっとした感じになっちゃうかな、と思ったけれど、初めてにしては上手くできたと思う。
あとは、アロマオイルを自作できたらいいんだけど。確か蒸留器とかで作るっていうのは見覚えがあるんだけど……次にあっちに行った時にちゃんと調べてみよう。
色々と中途半端な知識しかないのは、なんとも歯がゆいものだ。
ハンドクリームの匂いを堪能していたところに、トンネル側の道の方から車がやってくる音が聞こえてきた。ここに車で来るのは稲荷さんしかいない。
私が木の門を開けると、軽トラックが入ってきた。
「お待たせしました~」
暢気な稲荷さんの声に、私も笑みが浮かぶ。
軽トラの後ろの荷台には、青いビニールシートに覆われた荷物。
「いやぁ、知り合いのおばあさんが入院しちゃってまして、連絡つかなかったんで遅くなりましたけど」
軽トラから下りてきた稲荷さんは、荷台に乗って、荷物を抱える。けっこう大きい感じがするのに、稲荷さんはひょいっと飛び降りると、テーブルの脇に下ろした。
「もしかして」
「そう、もしかして、ですよ」
ニヤニヤ笑いながら、ビニールシートをむくと、中から現れたのは。
「糸車、お持ちしましたよ」
「おお……」
かなり使い込んでいるようで、木目が黒っぽくツヤツヤしている。自転車の車輪のような車の部分はスムーズに動く。足踏みするペダル? みたいなのも問題なさそう。
「詳しい使い方とかは、私は教えられないので、ご自身でなんとかしてくださいね」
「は、はい」
どうやって使えばいいのか考えつつ糸車をいじっていると、稲荷さんが不意に門の方へと目を向ける。
なんだろう? と釣られて目を向ければ。
「さ、五月様っ!」
真っ青な顔をしたガズゥが、稲荷さんの軽トラの後ろから現れた。
……なんか、見るからに厄介ごとって感じるのは、私だけではないはずだ。





