第290話 ゴモクハチ対策
養蜂箱を作るのはいいのだけれど、気になることがある。
「そういえば、ゴモクハチっていうのが天敵のようなんですけど、何か対策とかないですかね?」
私自身は、ゴモクハチを見たことはない。ハチたちの話では、結界内である山の中は安全、みたいなことを言っていたけれど、山の外となったら話は別なのだろう。
獣人たちがメンテナンスをするとなると、当然、ガーデンフェンスの外、結界の外となる。
「ゴモクハチですか?」
「あれって、地面に巣があるやつよね」
「この辺にもいるのね」
あーだこーだとママさんたちと話をしていると、村人たち数人とともに材料を抱えたガズゥたちが戻ってきた。その中には、なんとドワーフたちの姿もある。
「ゴモクハチですかい」
「ありゃぁ、人も襲ってくるヤツもいるから、質が悪い」
「この辺にもいるんですかい……厄介ですな」
獣人たちが、真剣に話し始めた。
彼らの表情から、そこまで!? と思ってしまう。ゴモクハチ自体を見てないから、私の中での危機意識はそこまで高くなかったけど、彼らの様子からも、真面目に駆除しておきたい、と思ってしまう。駆除できないなら、せめて近寄らせないとか。
「ゴモクハチの巣は、なかなか見つけにくくてなぁ」
村人たちの中にもゴモクハチの対策方法を知る者がいなかった。困ったなぁ、と話していると、土の精霊たちが、私の耳元でこっそり教えてくれた。
『あいつらなら、リュコーリスっていうはなの、ねっこのにおいがきらいなんだ』
「リュコーリス?」
土の精霊たちの言葉に、今度は風の精霊が割り込んでくる。
『このあたりにはないね』
『もっとひがしのほう?』
『かわのちかく?』
「川のそばに咲いてるのね?」
『いまはもうさいてないかも?』
『みなみのほうなら、まだあるかもよ?』
精霊たちの大いに盛り上がっている声は、村人たちには聞こえていないと、思ったら、ドワーフの一人には聞こえていたらしい。
「リュコーリス……そういえば、そんな花もありましたな」
「あれは帝国の南側で見たことがあるな」
「たしか大きな川ぞいに群生であった気がするんだが」
「となると、この辺じゃ難しいか」
土手の向こうには大きな川が流れているけれど、なぜか、この辺は荒地であまり大きく草も育たない。
『だったら、この辺に水をながしてあげるの~』
『あっちからながせばいいのよ~』
今度は水の精霊たちが嬉しそうに言いだす。そういえば、少し先に、山からの湧き水で出来た小川がある。かなり細い小川ではあるものの、そのまま川へと流れ込んでいたのを思い出す。
彼らのわきゃわきゃ具合に、祭りか! と、ツッコミそうになる。
「五月様」
ヘンリックさんはびっくりした顔で、周りをキョロキョロ見ながら、私の方へと歩いてくる。
「精霊たちが、なんでこんなにいるんです?」
そういえば、ヘンリックさんには精霊が見えるんだった。
「あ、うん、色々、お手伝いしようとしてくれてるみたいですね」
えへへ、と笑ってごまかす私なのであった。





