第288話 ガズゥたちと養蜂箱
「こ、これが、その『ようほうばこ』というものですか?」
「そう……ちょっと開けさせてね」
ガズゥたちは興味津々に、養蜂箱の周りを歩きながら、観察している。
私がハチたちに声をかけると、飛んでいたハチたちが、少し養蜂箱から離れてくれる。そして箱を持ち上げると、ガズゥたちを呼んで、下から覗かせた。
「す、すごい!」
「これ、ぜんぶ、はちのす?」
「はち、ささないねぇ?」
驚いたり、不思議がったりしているガズゥたち。
一応、上の方の箱から、切り取ることでハチミツを採ることができるのを説明をすると、そんなに簡単に!? と、驚いていた。
「……ハチミツなんて、滅多に食べられないんです」
「そうなの?」
「はい。山の中にあるのを見つけたときくらいだし、そもそも、見つけるのも難しいって。その上、ハチが刺してくるから、ハチの巣とるのも大変だって」
「あー、壊しちゃったら、そのハチの巣はダメになっちゃうもんね」
「そうです……でも、これは……壊してない?」
上の方のハチミツの詰まっているところを貰っているので、幼虫とかがいるところは、そのままの状態。壊されてないから、彼らはそのまま花の蜜を運び続け、ハチの巣はどんどん成長していく。
「ハーブの畑のそばにもあったんだけど」
「え……あ、そういえば」
「あれにも、ハチの巣が入ってるのよ。見に行ってみる?」
ガズゥたちはブンブンと勢いよく頷くので、私は養蜂箱を元に戻して、立ち枯れの拠点の方へ向かう。養蜂箱を見たいガズゥたちは、元気よく走っていく。
追いついた私は、さっきと同じように持ち上げて見せると、ここでもガズゥたちが驚きの声をあげる。
「これがあれば、ハチミツがいっぱい食べられるのかな」
ガズゥは養蜂箱をまじまじと見つめたまま、ぽつりと零す。
「箱だけじゃダメよ。近くに花がないと、ここに住みついてくれないと思う」
「おはな?」
「そう、花」
今、この立ち枯れの拠点周辺では、咲いている花はない。山周辺で、これから咲くかもしれないのは、獣人の村からドッグランへと向かう間に植えた、ツバキくらいだろうか。
「椿油作れたら、ミツロウでヘアクリームとか作れそうだけど」
今回の採蜜では、あんまり多くは採れなかったけど、たくさん養蜂箱や花を用意したら、少しは違うだろうか?
そういえば、スーパーで思った油。菜の花やひまわり、紅花なんかを植えたら、新鮮な油が作れたりして。
「あの」
一人で妄想してた私の服の裾を引っ張るガズゥ。
「な、なに?」
「あの、『ようほうばこ』って、俺でも作れる?」
「どうだろう?」
一度、自力で作ってるから、説明できるとは思うけど、ガズゥ一人で作れるかは、わからない。
「もし、作れるんだったら、作ってみたい!」
「ハチミツ、いっぱい!」
「あまいのたべたい!」
3人のキラキラした目で見上げられたら、私も否やとはいえず。
でも、実際、色んなところに置いて、花も育てたら、もっとハチミツもとれるし、ミツロウだって。ついでに油もとれたら……と、欲望が止まらない私は、ガズゥたちに、ニッコリ笑う。
「どうせなら、皆で作ってみようか」
私の言葉に、ガズゥたちが飛びあがって喜んだ姿は、めちゃくちゃ可愛かった。
 





