第286話 採蜜
荷物を整理していると、一番に目に入ったのはハチミツ用の分離機。
これを見たら、頭の中はハチミツしか浮かばなくなる自分の単純さに、笑ってしまう。こうなったら、一度養蜂箱を確認するしかない。
まだそれほど寒くはないものの、こっちには天気の予測のしようがない。いつ雪が降りだすようなことになるかわからないし、天気のいい日に、そして、動けるときに動くしかない。
翌日、朝から若干雲は出ていたけれど、さっそく養蜂箱のチェックに向かう。
念のため、大ボスともいえる女王バチのいるハチの巣に挨拶に行く。私がハチの巣に向かうのがわかるのか、いつにも増して、風の精霊が賑やかだ。
久々に木に出来ていたハチの巣を見たら、バカでかくなっていた。
「これ、酒屋の軒先に飾ってる杉玉みたいだわ」
思わず、あんぐりと見上げていると、大きな女王バチが飛んできた。
「あ、おはよう。あのね、ハチミツを分けてもらおうと思って」
そう声をかけると、ブンブンと羽で音をたて始めた。
え、嫌がってる? と思ったら、
『だいじょうぶみたいよ』
『つくってもらったいえのは、じゆうにしていいみたい』
『あー、でも1かしょは、べつのはちが、すみついてるみたいよ?』
風の精霊たちが、ハチと一緒に飛び回りながら説明をしてくれる。
養蜂箱を設置したのは5か所。
・果樹園
・桜並木
・トンネル側の道
・立ち枯れのハーブ園
・ジャスミンの柵
この中で大本のハチの巣から一番遠い場所が、トンネル側の道になるだろうか。秋咲きのバラが今も咲いている。
ちなみに、買ってきて作った物(サイズが小さい物)は、ここに設置している。大きなハチは入れないかもしれないけど、別のハチの巣から分蜂した小さいサイズのハチが入ってくれたらいいかなぁ、と思ったのだけれど、思惑通り、別系統のハチが住みついたようだ。
私たちはハチの巣から離れて、養蜂箱を確認しに歩きだした。
結論でいえば、全ての養蜂箱にハチの巣が出来ていた。
中でも桜並木のは、かなり大きくなっていた。
桜並木の養蜂箱は桜が咲いてなくても、大本のハチの巣が近くにあるので、花の種類が多く咲いている場所に近いところのせいもあるかもしれない。重箱のように重ねた4つの箱のうち、3段目までハチの巣が成長していた。
ちなみに他のハチの巣は、残念ながらそこまでではなく、せいぜい、2段目くらい。小さい箱のものも、同様だ(ちなみに、風の精霊に手伝ってもらって、その小さいハチの女王バチには許可をもらっている)。
仕方がないので、一番大きく育っている養蜂箱から上から1段目分のハチの巣を分けてもらうことにした。
テグスを重ねている隙間に通して、キリキリとハチの巣を切断していく。
「お、おお!」
箱の中身を見ると、黄金色の蜜が、蜜蝋でできた巣の中にいっぱい詰まってる!
指先についた蜜を舐めると、喉が痛くなるような甘さだ。
「美味しい……」
思わず零れた言葉に反応するように、そばを飛んでるハチたちが、うるさいくらい盛大に羽を鳴らし始める。
『うわー、じまんげだわ』
『わかるけどー』
『ちょっと、なまいきー』
風の精霊たちとハチたちの口喧嘩(?)をよそに、私はいそいそとハチの巣を『収納』するのであった。





