第285話 米と糸車と、従妹の結婚
夕方にはログハウスに戻ることができた。夕方といっても、だいぶ日が落ちるのが早くなったせいで、すでに薄闇の中だ。しかし、灯りのついたガーデンライトのおかげで、なんなくログハウスの敷地に到着して、ホッとする。
帰り道に稲荷さんのところに寄った時、あまりにも山盛りな荷台に、引きつった顔をされてしまった。そんな山ほどの荷物は、全部『収納』できてしまったので、暗い中での重い物の上げ下ろしをしないで済んだのは助かった。
その際、稲荷さんと米の話をした。異世界側にもないですかね? と。
結論からいえば、あるにはあるらしい。
しかし。
「あっちにあるのは原種というんですかねぇ……炊いても旨くないんですよ」
苦笑いしながら言う稲荷さん。一応、大きな川沿いに群生したりしているらしいのだが、こちらの旨い米になれていると、イマイチらしい。それくらいだったら、こっちで精米したのを買って帰る方が楽なのだとか。
育ててみなかったのかと聞いたら、持ち込んでもみたそうだが、エルフの住む土地には根付かなかったそうだ。単純に、あちらの稲自体が異世界では根付かないものなのか、土地柄なのか。エルフのイメージとして緑に愛されてる種族、みたいなのがあったけれど、そう簡単な話でもないらしい。
でも、できるのであれば、私も一度、挑戦してみたいかも、なんて話をしたら、精米前の籾殻のついた米を少しだけ分けてもらった。
なんでも、近くの農家さんから、たまにお裾分けされるらしい。そのたまにのタイミングで伺ってしまった私。ラッキーというべきか。とりあえず、これは春になったら、挑戦してみようと思う。
そして、なんと糸車もいただけるかもしれない、という話が出た。
元々、養蚕をしている農家があったらしく、もうやってないので、古い糸車がしまいこまれている可能性があるらしい。今度、知り合いの農家にでも聞いてみると言ってくれた。
これで、この冬にやれることが増えそうなので、楽しみだ。
他にも使えそうな古い道具があったら貰ってきてほしいと伝えたら、苦笑いされながら、あまり期待はしないでください、と言われてしまった。期待してるのに。
そういえば、稲荷さんと話をしている間に、タイミングよくなのか、悪くなのか、LI〇Eがきたのには驚いた。
相手は母方の従妹。もう何年も会ってなかったのに、いきなり何事かと思ったら、その従妹が結婚するのだとか。相手の親族が多いので、バランスをとるために私を思い出したのだという。正直、思い出さなくていいよ、と思ってしまった。
だって、本当にそんなに仲がよかったわけでもないのだ。むしろ義妹のほうを可愛がっていなかったか?
誰からIDを聞いたのかと尋ねたら、母からだという。自分や義妹からは連絡がとれないからと彼女に任せたのかもしれない。
住所がわからないから招待状が送れないんだけど、と言われ、結婚の時期を聞いたらまさにキャンプ場の休業期間中。その時期は日本にいないと言って、断った。実際、異世界にいるしね。下手に教えて、母たちに知られる方が、もっと面倒だ。
あちらは勝手に海外に行くと勘違いしたようで、羨ましがられたけれど、そこは笑って誤魔化した(画面上)。
会話を終えてスマホの画面から視線をあげると、気の毒そうな顔をしている稲荷さんがいて、こっちの方が恐縮してしまった。
実際、たまにこちらに戻って来てLI〇Eを確認するたびに、新しいIDで接触してくる相手がいる。明らかに、母か義妹だと思うのですぐさまブロックしてる。でもいい加減、完全にシャットアウトしてもいいよね、と思う。
たまにしか使ってなかったスマホだけに、放置でもいいかと思ったけれど、もう離れて1年経つというのに、変わらないのだから。
次に行った時に、LI〇EのIDと携帯の番号も変えよう、と強く思った。





