第280話 『後継者』あるある
ヘンリックさんたちは、元々、ドワーフの国で有名な工房で働いていたらしい。
中でもヘンリックさんと兄弟子の二人は、国でも5本の指に入るとかまで言われていたんだとか。しかし、その工房の跡取り騒動に巻き込まれて、ヘンリックさんは辞めざるをえなかったんだって。
「親方の子供らと兄弟子がなぁ……」
なんでも、親方のところには息子と娘がいて、娘は兄弟子といい仲だったんだとか。
親方としては、腕も他の弟子との関係も良好なヘンリックさんに、と思っていたらしいんだけど、運悪く、親方が病気になってしまったとか。
そこにつけこんだのが、子供らと兄弟子。すでに奥さんは亡くなっているせいもあって、余計に心が弱っているところに、子供らから、あーだこーだと言われて、兄弟子の方を跡取りにすることになったんだとか。(そこを息子にしないだけの判断力はあったんだ、と、ちょっと思った)
そうなると居づらいのはヘンリックさんの方になるのは、当然か。
「あいつらはぁ、わしが出ていくというので、ついてきた奴らなんでぇ」
「……あんな大人数が抜けたら、工房の方は」
「まぁ、5分の1程度が抜けたことになりますか。後に残った連中もなかなか厳しかったと思いますよ……そのせいもあって、奴らは、わしの悪い噂を散々言いふらしましてねぇ」
工房が有名だったのも、仇になったのか、悪い噂っていうのが広がりやすいからなのか、ドワーフの国でまともな仕事が出来なくなったのだという。
なんか、あるあるな話だなぁ、と思う。
「そこからはぁ、国を出て、いくつかの国を巡って、レイティア様のところに辿り着いたってわけでさぁ」
普通は、ドワーフとエルフっていうだけで、仲が悪かったりするんだけれど、ヘンリックさんがドワーフの国から追い出されたっていうのを、逆に気に入ったレイティアさんが、雇い入れることにしたんだとか。
それだけ、ヘンリックさんが腕がいいって話なんだろう。どうも話を聞くと、本職は土木関係ではなく、鍛冶など金属を扱う方らしいが、仕事があるだけマシなのだとか。
どこの世界も世知辛いなぁ。
「ネドリ殿から聞きました。ここらは五月様の土地なのだとか。わしら、こんな精霊がたくさんおる土地は初めてですよ。ここならぁ、わしらの力がお役にたてると思うのです」
確かに、獣人たちはドワーフたちみたいに器用ではない。
武器もどんだけ使い込んでるんだ? と思うようなのを使っていたり、鍬や鋤、家事に使う金物類など、大事に使っている。それは彼らにはその技術がないせいもある。
「場所さえいただければ、自分たちの棲み処は、自分たちで用意します」
山の斜面があれば、それが一番だけれど、村の端でも十分にありがたい、という。
――やっぱり、ドワーフって木の家よりも洞窟なの!?
ちょっとイメージ通り過ぎて、ワクワクしている私がいる。
彼らが住むなら、どこがいいだろうか、とか、ちょっと思っていたりする。
「まずは、朝食を食べに行きましょう。落ち着いてから、これからのことを考えましょうか」
前を向けば、ガズゥがニコニコしながら、玄関のドアを開けて待っていた。
 





