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山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
二度目の秋も、冬支度で大忙し

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第274話 ネドリのドキドキは止まらない

 片膝ついているネドリに気付いた村人たちが、慌ててこっちに走ってくる。


「え、え、いいんですか!?」

「参りましたねぇ……ネドリさん、でしたか。その気持ちは受け取りましたので、立ってください」

「しかし」

「望月様にもご迷惑です」

「モチヂュキ様?」

「あ、私のことです」

「ああ、すみません!」


 彼が立ち上がったところで、彼の背後にはすでに多くの村人たちが、心配そうな顔でネドリと私たちを見比べている。

 そりゃ、そうか。彼、村長なんだし。


「ネドリ様、どうしました」


 おずおずと声をかけてきたのは、ネドリより少し年上に見える男性だ。


「だ、大丈夫だ。こちら、その」


 ちらりと稲荷さんへと目を向ける。


「どうも、はじめまして。稲荷と申します。望月様と親しくさせていただいております」


 胡散臭い笑みを浮かべて、挨拶をする稲荷さん。皆、訝しそうな顔してるんですけど!

 神様なのにぃ、と思いつつも、稲荷さんらしい、とも思って、苦笑い。

 獣人たちはネドリと同じように「モチヂュキ?」「誰?」と話し合っているところに、それが私のことだと聞かされて、おお~、となってる。そんなに発音しづらいのだろうか。


「新しい村の様子をね、ちょっと見てもらってたんです」

「さようでしたか」


 村人たちはニコニコ笑顔。彼らも満足してるってことだろう。


「そうだ、ネドリさん、よかったらこの周辺の案内をお願いできますか?」


 稲荷さんがネドリの肩に手を置くと、ビクッと震えるネドリ。いや、そんなにビビらんでも。ネドリよりも、少し背が低い稲荷さんなのに、ネドリの方が小さく見えるのはなぜだ。


「は、はい」

「望月様は、どうぞ、お仕事を進めてください」


 うん? 私の仕事?

 一瞬考えて、ああ、と思う。さっさと周辺をいじったほうがいいってことか。


「あー、じゃあ、ネドリさん、稲荷さんの方、お任せしても?」

「は、はいっ」


 声、裏返ってますがな。

 村人たちも、不思議そうな顔をしているけれど、畑の方へと進んでいくネドリたちの後をついていっている。

 そんな中、最後に残ってたのは、たぶん村で最高齢で『オババ』と呼ばれる薬師のおばあちゃん。ネドリたちの背中を見つめる顔は、強張っている。


「オババ、大丈夫? 顔色悪いけど」


 私の声で我に返ったオババは、大きく目を見開いて、私へと顔を向ける。


「あ、あの」

「うん、どうしました?」

「あ、あ……いえ、なんでもありませぬ……」


 何かいいたげだったけれど、結局そのまま口をつぐみ、石壁の中の方へと戻っていってしまった。

 少し心配ではあったものの、しっかりした足取りだったので、私はそのまま見送ると、稲荷さんたちとは反対方向へと足を向けたのであった。


      *   *   *   *   *


 南側の石壁のそばから、固くなった地面に鍬を入れていく。

 赤土が掘り返され、このような痩せた土で植物が本当に育つのか、心配になりながらも、獣人たちは土地を耕していく。


「ふむ、やはり、なかなか厳しいね」

「……この土地は、どうして、このように荒れているのでしょうか」


 稲荷の厳しい目が南側、土手を越え、大きな川の先へと向けられている。


「ここは、かつては広大な緑地が広がっていたそうです。川を挟んだ向かい側には、強大な国家があったとか。その国が、古龍の怒りに触れて滅ぼされた話はご存知ですよね?」

「……昔話としては聞いております」

「その怒りが、川を越えて未だに影響を及ぼしているってことですよ」


 どれくらい激しい怒りだったのか、ネドリは想像もしたくなかった。


「まぁ、今は、ヤツもご機嫌だから、徐々に戻るかもしれないですがね」

「……そうなのですか?」

「あれ? 聞いてません?」

「?」

「貴方、散々、話してるんじゃないんですか? エイデンと」

「……はい?」

「フフフ、あいつを怒らせないようにしないとね」


 稲荷の言葉で、古龍とエイデンが繋がった瞬間、サーッと血の気が引いていくネドリ。

 

「まずは、望月様を第一に、この土地を守っておけば問題ないと思いますよ」

「か、畏まりましたっ!」

「貴方方、狼獣人には期待してますよ(そうでないと、私が手を貸す意味がなくなるからね)」


 稲荷の指先から、目に見えない何かが地面の中へと浸み込んでいく。その周りを土の精霊たちが嬉しそうに飛び回っていた。

 しかし、緊張しまくっていたネドリは、当然、その光景を認識することはできなかった。


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