第271話 洗濯板とネドリの昔話
獣人たちの村が、着々と整備されている。生活するための家はすでにログハウスを作っておいたけれど、彼らなりに使う建物を独自で作っているようだ。倉庫しかり、作業場しかり。ここまできたら、彼らにお任せするのがいいのだろう。
それとママさんたちの洗濯場。ログハウスの中には風呂場があるから、そこで自由に水も使えるはずなのに、みんなで集まって洗濯するのがいいらしい。井戸端ならぬ、水端会議らしい。
にぎやかに話しながら、手でごしごし洗っている様子。あまり目だって泡立っていない(洗剤は?)し、そもそも洗濯板はないのか思わず聞いてみた。
「せんたくいた?」
「なんですか、それは」
なんと、洗濯板はないらしい。他の村や町では知らないけれど、この村にはないそうだ。もしあれば、行商人が持ってきているはずだろうから、そもそも、この世界にはないのだろうか?
一方で、獣人の貴族とかあたりでは、魔道具で洗濯をしたり、魔力の多い人族などでは、魔法を使うところもあったりするらしい。
「ああ、もしかしたら、うちの村だからかもしれないねぇ」
何かに思いついたのか、ハノエさんが苦笑いを浮かべる。その言葉に、テオママ、マルママも顔をしかめる。
私が理解してない顔をしていたせいだろう。ハノエさんが、教えてくれた。
なんと、あのネドリが、その昔、ビヨルンテ獣王国の宰相の娘との縁談を断ったことがあったらしい。
……は?
いきなりとんでもないワードが出てきたよ。
「うん? 『さいしょう』って偉い人の『宰相』?」
「ハハハ、そうそう」
そもそも、その宰相自体、何代か前の国王の王弟の血筋の家柄で、公爵家ということらしい。
出た、王族!
ちなみに、ビヨルンテ獣王国の王家は獅子の獣人なんだとか。獅子……ライオンってことだね。
種族が違っても結婚できるの? と思ったら、普通はできないんだって。そもそも、子供が産まれないんだそうだ。
じゃあ、無理じゃん? と思ったら、王族は一夫多妻、一妻多夫なんだとか。ライオンのハーレム……いや、あっちは完全にオスだけがハーレムの主だったはずだけど、こっちは女性もなのか。
「えー、まさか、ネドリを愛人にとか言ってきたってこと?」
「そう、最低でしょ?」
その場にいた皆が、げーって顔を顰めてる。わかる、わかるわ!
そもそも、ネドリって冒険者ってことは、この世界でいう平民とかっていうのじゃないの? そうなると、断れないんじゃ、と思ったら、Sランクっていうのがモノをいうらしい。さすがだ。
そういえば、あちらでも狼は愛情深い生き物っていうイメージがあった。物語でもそういうのがあったような。
「もうその娘っていうのは婿をとったとかっていう話じゃなかった?」
「そうね、もう何年前だったかしら」
聞きたい話からどんどん外れて、下世話な話に変わっていく。まぁ、女たちの話なんて、そんなものだろう。
ただ聞いていると、未だにネドリに因縁をつけてくる節があるようで、それを忖度した獣人たちの対応が如実に現れているってことだろう。
――まったく、くだらない。
どこの世界でも、似たようなことをするやつっているのねぇ、と思ってしまう。
それでも、この村の人達が笑い飛ばしているあたり、カッコいいって思う。
同時に、なんか私にできることはしてあげたくなるのは……犬好きだからかな?





