第269話 どこまで広がる、五月の土地
久しぶりの編み物の割には、サクサク編めた。お昼前には完成した。もう少し大きければ、腹巻だな、と内心思う。次はテオのでも編むかな。
「でもその前に、キリがいいからお昼にしちゃおうか」
お湯をわかして、インスタントの味噌汁を用意して、今朝作っておいたおにぎりを冷蔵庫から2個取り出す。一人での食事はこれくらいで十分。暖炉の前で寝ていたノワールも、味噌汁の匂いで目が覚めたらしく、物欲しそうな顔で起きてきた。
「ノワールもお昼にする?」
『する~』
呑気な声に、クスリと笑う。
ノワール用にはオークの生肉。さすがに床に直置きはしない。一応、アルマイトの洗面器にドカンとのせる。これでも、ペロリなんだよなぁ、と思いながら、私は自分のおにぎりに手を伸ばす。中身は梅干しと昆布の佃煮。梅干しの種は当然、黒いポットに埋めて再利用だ。ほんと、異世界って不思議だ。
――そういや、まだ稲荷さん来ないけど、土地の契約ってどうするんだろ。
もぐもぐとおにぎりを頬張りつつ、タブレットで確認した私の土地のことを思い返して遠い目になる。
家に戻ってきて荷物の整理をし終えると、暖炉に薪をくべて、火をつける。人がいないログハウスの中は、すぐに寒くなるから、冬場は結構困る。
暖炉の前で座布団に座りながら、私はタブレットを手にする。
稲荷さんの言葉通り、土地の確認をせねば。
「とりあえず、『ヒロゲルクン』を開いて~、地図を確認っと……へ?」
うちの山が小さい。
いや、というか、これ、世界地図になってない?
「どういうことよ」
正確に言えば、世界地図の白地図版。その中で、うちの山周辺ともう1か所が色づいているのだ。もしかして、と、うちの山をタップすると、うちの山周辺が拡大される。実際は、うちの山のところと、獣人たちの居住地周辺、それにたぶんエイデンの山の裾の部分。
「あー。私が手を入れたところってことか」
しかし、なぜ世界地図に?
画面の右上に戻るマークらしきものがあったので、そこをタップ。やっぱり世界地図っぽい。ここって、ずいぶんと大きな大陸なのね。周囲が海で囲まれてるけど、他の大陸ってないのだろうか。
それよりも、もう一か所、色づいていた場所の方が気になる。位置的には、うちの山から見て北東よりのところにある。
「……あー。もしかしてこの場所、ガズゥたちの村かも」
あそこで私何かしたっけ? 建物や木を『収納』して……あんまりぼこぼこなのが気になって、少しだけ足で踏み固めただけよね。
そこをタップしてみる。うん、なぜか石壁で囲われてた範囲が対象になってる。
「まさか、それもカウントされるの?」
それやってたら、私が何かしたところは私の土地扱いになっちゃうんじゃ。
え、どこまで広がるの?
……うん、これは稲荷さん案件だね。
私はタブレットをパタンとテーブルの上に置いて、現実逃避することにした。





