第266話 山での穏やかな日常
朝の空気がすっかり秋の気配で濃くなってきている。
新しく出来た村では、朝食の準備中なのか、あちこちの家の煙突から煙が上がっている。彼らが全員無事に到着して1週間が経った。
私は日課になった立ち枯れの拠点の畑の点検に来ている。
「おはようございます! 五月様!」
元気に駆け寄ってきたのは、ガズゥ、テオ、マルのちびっ子たちだ。
私は手を振ると、立ち枯れの拠点の畑で育てている野菜へと目を向ける。ナスやプチトマトが大量に生っている。それに玉ねぎやじゃがいも、にんじんも、けっこうわさわさ茂っていたりする。
相変わらず、成長スピードはおかしい(以前よりはマシだけど)し、一人では取りきれないし、食べきれない。なので、ガズゥたちにもお手伝いを頼んで、お駄賃代わりに、採れた野菜たちの一部をお持ち帰りしてもらっている。
結局、村長の家と倉庫以外の家々は、全て私が『収納』して『分解』した。
前の獣人たちの家は、トイレはぼっとん、風呂なし。そんな彼らが、ログハウスのトイレとお風呂を知ってしまったら、それがない生活は無理、となるのは当然なのかもしれない。
一方で、村長の家はそのまま残した。ログハウスよりも見た目は十分立派なのだ。
しかし、トイレと風呂だけは前のまま。『タテルクン』にリフォーム機能でもついてればいいんだけれど、今のところメニューはない。近いうちに稲荷さんにでもお願いしてみようかと思う。
そうそう。『分解』といえば、古い家についていたガラスが、『タテルクン』で再利用してログハウスを作ることができたのにはびっくりした。
できたらいいな、とは思ってたけど、ログハウス自体は、あちらの技術のようなもの。残念ながら、サイズが決まっているようで、それに合わない部分には適用されなかったけど、小さな嵌め窓には十分だったみたい。真っ暗で、閉め切った状態よりはマシになったと思う。
予定外の村長の家が追加されたので、当初の読みよりも敷地を広げることになった。
私には『ヒロゲルクン』があるので、建物の移動は簡単。しかし、獣人たちはそれを見て、五体投地状態。いや、まぁ、そうなっちゃうよね(遠い目)。
とりあえず、皆が無事に生活できるようになったので、いいかなと。
生活といえば、食料のことだ。一応、倉庫に保管してある物もあるし、私の畑の野菜などもあるにはあるけれど、それだけというわけにもいかないわけで。石壁の外側に広がる荒野をなんとか開拓できないかと、皆で考えているらしい。
ついでに、エイデンの住む山から北側を中心に、若者たちの多くが狩りに行き、女性たちは木の実などがないか、探しに行っているらしい。うちの山は結界で入れないしね。ホワイトウルフたちと共生できているんなら、いいんではないかと思う。
さすがに1週間も経てば、皆、顔つきも穏やかになっていて、改めて、皆、無事に来れてよかったと思う。
「五月様」
「うん? 何、ガズゥ」
「果樹園とかお屋敷の木になっている実、そろそろ全部とったほうがよくないですか」
「あ、そうだった」
ガズゥの言葉で、立ち上がって山の方を見る。紅葉はまだ目立たないけれど、もう、冬支度を始めなきゃ、と思いつつ、背伸びをした私なのであった。





