第265話 村の後片付け
ネドリに任された村のこと、というのは、出ていった村人たちが持ち出せなかった荷物などのことだ。獣人たちの多くは、着の身着のままの状態で村を離れている。私が買っておいた物くらいじゃ、到底、足りないのだ。
「『収納』のバージョンアップしといて正解だったわ」
とりあえず、目の前の家々を『収納』していく。ネドリは荷物を持っていくだけと考えているかもしれないけれど、分別とか面倒なのでさっさと家ごとしまい込む。
まさか自分が村まで来るとは考えてもいなかったから、ログハウスを作りまくっていたけれど、もしかしたら、住み慣れた家の方がいい、という人もいるかもしれない。戻ってから新たに作らなくてもいいかな? とか思ったり。
「でも、トイレとお風呂に慣れちゃったら、ログハウスの方がいいって言うかなぁ」
そう言いながら、ほいほいと仕舞っていくと、最後にはだだっ広い土地だけが残った。
「それに、梅の木も」
村を囲う石壁の四隅に青々と茂った梅の木。すでにしっかり根付いているように見えるけれど、せっかくなら連れて帰りたい。試しに1本。シュンッと消えてしっかり『収納』できてしまった。見事に大きな穴だけが残ってるけど、まぁ、いいか。残りの3本もどんどん『収納』。
「あとはボルダの苗だけど……あれ、これは全然育ってないね」
同じように石壁の中で、地植えにしたようだけれど、こっちはあまり成長もしていないし、むしろちょっと弱弱しくなっている。持ち帰ったら、ちゃんと育ってくれるだろうか。
「よし、これでもういいかな」
さっさと『収納』して、満足して軽トラに向かおうとして振り返ると、荷台に乗って待っていた獣人たちが、あんぐりと大口をあけて固まっている。その中には助手席に乗り込もうとしていたケニーも含まれている。
「どうかした?」
「……ハッ!? ア、イエ、ダイジョブデス」
なぜか片言になっているケニー。他の獣人たちは、頭をコクコク頷くだけ。
「クククッ」
「何よ、エイデン」
軽トラに近寄りながら、なぜか笑うエイデンを睨みつける。
「いや、何でもないさ。さて、さっさと戻るぞ」
そう言って、ぶわりと飛びあがったと同時に巨大な古龍の姿に戻る。
何度見ても不思議な光景に、私もあんぐりと口を開けてしまうのは仕方ないと思う。気を取り直して、運転席に乗り込もうとして荷台を見ると、獣人たちが白目を剥いて倒れてた。
「え、だ、大丈夫!?」
声をかけるけど誰も反応しない。まさか、死んだりしてないわよね!?
『五月、放っておけ。起きててもきっと騒がしいだけだ』
「そ、そうかもしれないけど、落ちたりしない? それに毛布渡したけど、上空とか寒かったりしないかしら」
『フン、五月は移動中、寒かったか?』
言われてみれば、気にはならなかったかも。
『ちゃんと結界をはっているから大丈夫だ。ほら、さっさと戻るぞ』
エイデンに任せておけば大丈夫だろう……たぶん。
私は素直に運転席に乗り込んだ。助手席のケニーは、しっかりシートベルトを止めて、握りしめている。気持ちはわかる。
古龍の大きな手に抱きかかえられ、車体がふわっと浮かんだ感じがした。横の窓から、眼下に焼け焦げた森の跡が広がっているのが見えた。
ギャオォォォォォッ
エイデンの雄叫びがいきなり響く。
ガラスがビビビッと空振する。
「ちょ、ちょっと! 起きちゃうじゃないの!」
慌てて後ろを見るけれど、誰一人起きている様子はない。むしろ、気持ちよさそうに寝ている。
――もしかして、また、魔法で眠らせてくれてる?
そう気付いた私は、ホッとして前を向いた。
しばらくは空の旅だ。運転しなくていいのなら、と、タブレットを取り出して、何をしようか、と悩み始めるのであった。





