第263話 朝食と、結界の現実
エントランスでは、酔いつぶれている獣人たちが、死体のようにゴロゴロと転がっている。それとは対照的に、動き出しているのは老人たち。
「おはようございます、五月様」
私に気付いた獣人のおばあさんが、にこりと笑いながら挨拶をしてきた。
昨夜、ブルーベリーを食べるまでは、諦めの表情だったのに、今ではニコニコと笑顔を浮かべながら、キビキビと動いている。
……ブルーベリー、恐るべし。
朝食は、すでにおばあさんたちが作ってくれていて、黒っぽいパンに、薄い塩味のスープが出された。具はベーコンの端っこみたいなのだ。それを皆に配り始めている。黒っぽいパンは少し酸味があって、固くて、むしってスープにつけないと私には食べられそうにない。周りを見ると、それが普通のことなのだろう。皆、特に何も言わずに黙々と食べている。
私の『収納』の中には、燻製肉や卵(異世界産)がいくらか持ってきてはいたけれど、これから戻ることを考えて今出すのを止めた。軽トラはエイデンが運んでくれるとはいえ、全員を私の軽トラには乗せきれない。当然、昨夜、到着したドゴルの馬車に乗ってもらうことになる。移動にどれくらい時間がかかるかわからないけど、その間の食料が必要になるので、彼らの食料として渡すつもりなのだ。
食事は、そのままエントランスでそれぞれにかたまって食べ始めていた。
最初、私は食堂の方で食事をすることを勧められたけれど、みんなとここで食べることを選んだ。ネドリも皆と食べているというのに、私一人っていうのもねぇ。
自前の折り畳み椅子を出すのもなんなので、階段に腰かけながら食事を受け取る。私も黙々と食べながらネドリの方を見ると、彼と目が合った。
彼は小さく頷いた。
実は、昨夜のうちに彼と話していることがあったのだ。
「お食事中ですが、ちょっと話を聞いてください」
私の声に、皆の視線が向けられた。
昨日、梅の木を『鑑定』した時は、詳しいことはわからなかったのだけれど、精霊たちが教えてくれたことがある。
――いまは、さつきがいるから、もっているけど、もうちょっとしたらきえちゃうよ
――だって、ここにはまもるべきものがいないのだもの
――さつきがまもりたいものがいなければ、うめのきは、ただのうめのきにもどるよ
今ある『結界』が、もう少ししたら消えてしまうというのだ。
精霊たちが言う『まもりたいもの』とは、たぶん、ガズゥたちのことだろう。苗を渡すときに、彼らを守ってほしいと思ったから、その願いを聞いてくれたのかな、と予想する。
さすがに『精霊に聞いたので』とは言えず、一応、鑑定したらそう出ました、ということにした。そしたら、鑑定スキル持ちか! と驚かれた。
普通、疑うところだと思うのに、獣人たちは素直に信じてくれた。
……ちょっと、大丈夫かな、と思ったのは内緒だ。





