第259話 空の旅と、ネドリの村
ドゴーンっという、もの凄い音の後。
――ギャオォォォッ!
某怪獣映画でありそうな叫び声があがる。
何事かと、サイドミラーに目を向ける。
「え、エイデン!?」
真っ黒な巨大なドラゴンの背中と大きな羽が見えた。日の光に、ギラギラと鱗が光ってる。
私はブレーキを踏んで車を止めると、窓を開けて顔を出す。
見上げるような大きさと比べると、相手となる馬と冒険者のなんと小さいこと。あれ、片足だけで潰れちゃうんじゃない?
対する冒険者たちは、驚いて暴れる馬から放り出されてる。あ、腰が抜けて立てないみたい。その間に馬たちは逃げ出してどっかに行ってしまった。
「エイデンッ!」
私の呼ぶ声に、くるりと顔を向ける。
「あんなの放っておいて! 急ぎたいの!」
――グルルルルッ
エイデンの黒い目が細められる。何、まさか、怒ってるの!?
ちょっと焦る私をよそに、エイデンは身体の向きを変えると。
「ちょ、ちょっと、何!? え!?」
軽トラを抱えて、飛び立った。
エイデンに抱えられて飛ぶこと1時間。当然、馬車組とは、離れてしまった。ホワイトウルフたちがいるから、大丈夫だとは思うけど。
最初、どこに向かってるのか問いかけたけれど、聞こえていないのか返事ももらえなかった。運転席側がエイデンのお腹側にあるから、余計に声が届かないんだろう。
助手席側はしっかり外の景色が見える。けっこう高いところを飛んでるのがわかるからか、座っているケニーはブルブル震えていた。外にいたケニーは、飛ぶ直前、助手席に戻ってきたのだ。あのまま外にいたら、エイデンが飛んでいる間に、風圧で飛ばされてたかもしれない。
エイデンがしっかり軽トラを抱えているせいもあってか、思いのほか、快適な空の旅である。
「あ、あれ、うちの村かも……って、なんか凄いことになってる……」
高さに慣れてきたのか、窓から外を見ていたケニーが驚いた声をあげた。私はケニーが教えてくれた方向に目を向ける。
「うわぁ……」
村の周囲が丸焦げだ。ところどころに大きな黒い塊があるけれど、あれは何だろう。
肝心の村の方は無事なようで、周囲の風景と比べて妙に浮いている。
「絶対、エイデンだよね」
「……そうでしょうね」
どんな業火が周囲を襲ったのか、と思ったら、身体がぶるっと震える。しばらくして、エイデンがゆっくりと降下しはじめた。
軽トラが下ろされたのは、村の少し手前のところ。エイデンの姿に気付いたのか、村から人が走ってくるのが見える。
「ネドリ様ッ」
軽トラから飛び降りたケニーが叫びながらネドリの方へと駆けていく。それに続いて私も軽トラから降りると、いつの間にか人の姿になったエイデンが私の隣に立っていた。
「……助けてくれてありがと」
「うむ。ノワールから連絡が来て慌てて追いかけたぞ」
「どこ行ってたのよ」
「ちょっと石をトりにな」
「……あ、そう」
毎度のことだ。どことは聞くまい。
それよりも。
「これ、エイデンの仕業よね」
じろりと周囲を見渡す。いまだに焦げ臭いにおいが漂っている。
「仕方あるまい。一々、ヤるのも面倒だったのだ」
「それだって、こんなんじゃ、相当熱かったんじゃないの? ネドリさんが無事なところを見ると、中は大丈夫だったのは想像できるけど……」
「おお、そうだ、そうだ。五月のウメの木は素晴らしいの! あの業火の中でも村の中はちょっと熱い程度だったらしいからな」
――どんだけ凄い『梅の木』なのよ。
呆れている私と、なぜか自慢気なエイデン。その私たちの方へと、笑顔のネドリがゆっくりと向かってくる姿が見えた。





