第257話 馬車に追いつく
翌朝、朝日が顔を出した頃、立ち枯れの拠点から軽トラに乗り込んだ。
ホワイトウルフたちの先導で、獣人たちの村へと向かう私たち。折り返しで申し訳ないけど、付き合ってもらう。ご褒美の魔物の肉は先渡しだ。
荷物は全部『収納』しているので、荷台を気にすることなく、飛ばせるのは助かる。
エイデンがいればよかったのだけれど、タイミング悪く、どこかにでかけている模様(ノワール情報)。ノワールも来たがったけれど、村に向かっているとの伝言を伝えてもらうのでお留守番だ。
こういう時、スマホが使えたらいいのに、と思うが、その手の通信の魔道具はかなり高価らしい。この前来た、エルフの商人のレディウムスさんたちの商品にもなかった。
誰か、ササッと作ってくれたらいいのに、と、ちょっとだけ思った。
しばらく道なき道を走らせていると、昼過ぎに、私たちの前を土埃をたてて走る馬車が見えてきた。
「もしかして、あれかな」
「そうかもしれません……『けいとら』ってめちゃくちゃ早いですね」
いや、馬車が遅いんだと思う。
そもそも、着いた翌日に走らせたら、馬だって疲れが残ってるだろう。スピードだって出ないんじゃないのかな?
最後尾の馬車の脇を、少し幅を空けて並走する。やっぱり、狼獣人の若者だ。隣を走る軽トラにびっくりしつつも、手綱はしっかり握ってる。
「やっぱり、あれはロムルですね。きっと先頭を走ってるのがドゴルだと思います」
青ざめた顔のまま、厳しい表情のケニー。
「わかった。一度、止めて、休ませよう」
私はそう答えると、軽トラのスピードを上げる。馬車を追い抜くたびに、御者をしている子たちが驚いた顔をしていて、ちょっと笑ってしまった。
「ドゴル!」
助手席からケニーが声をかける。
「え? ケニー?」
「止まれ!」
ケニーの声に反応して、馬車は止まる。
「ケニー、なんだそれは……って、サツキ様!?」
驚いて御者の場所から飛び降りるドゴル。獣人の若者たちのリーダーだった子だ。その声に後続の馬車から、次々に下りてくる子供たち。こんなに若い子たちが器用に馬車を走らせていることに驚く。
しかし、皆無理していたのか、疲れているのが隠しきれていない。目の下にクマのある子もいる。
「みんな、お昼は食べたの?」
「あ、いえ」
私に言われるまで、食事のことを忘れていたようだ。朝ご飯もちゃんと食べてるのかも怪しい。
周囲を見渡しても、木陰になるようなところは近くには見当たらない。仕方がないので、馬車の影にブルーシートを敷いて、皆に昼ごはんを食べさせた。『収納』にしまっておいた、昨夜作っておいたシチューと、まとめ買いしておいたバターロール。一人暮らしだったら絶対に買わないヤツだ。
ガツガツ食べている様子に、食料はどうしたのか聞くと、荷台にあるけど迎えに行く皆の分だから食べていないとか言いだす始末。どんだけ切羽詰まってるんだ、と思ったら、残っている人たちの中に、ロムルの祖父母がいるらしい。一番最後尾の馬車に乗ってた子だ。
「急ぐ気持ちもわかるよ。私も焦ってる。でも、君たち、途中で魔物とか悪い人とかに襲われるとか考えなかったの?」
「……」
うん、まあ、そんな余裕もなかったんだろうな。
でも、ここまで無事に来れたのは運がよかった。
「……とりあえず、ここで休憩しよう。ホワイトウルフたちもいるから昼寝して」
「でもっ」
「途中で事故ったら、それこそ迎えに行けないよ?」
実際、食事をしたせいか、この中で一番小さそうなロムルがこっくりこっくりしだしている。
私は『収納』から毛布を取り出して、ブルーシートの上に敷くと全員横になるように促したら、全員素直に横になった。
やっぱり疲れてたんだろう。あっという間に寝息をたてはじめた。





