<ネドリとエイデン>
狩りのために保管してあった『集魔香』の活躍で、半数近い魔物の流れが変わったことに安堵するネドリ。
「よし……馬車に追いつかれないように、できるだけ、ここで数を減らすぞ」
ネドリの言葉に、狼獣人たちの目が赤く光る。
ネドリのスキル、『王権の発動』により、数は多くはないものの、戦える全ての村人の戦闘能力があがった。
「なんとか、彼らが逃げ切るまで耐えるぞ」
「おおっ!」
その気合の元に、彼らは一昼夜戦い続ける。
しかし、当然、限界は来る。
「撤退、撤退だ!」
「ケガ人を先に!」
「急げ、変異種のオーガだっ!」
殿を勤めたネドリの叫ぶ声に、皆が必死に村の中へと駆けこんでいく中、オーガの持つ大刀が、ネドリの頭上に振り上げられる。
「ネドリ様っ!」
「くそっ!」
ドゴンッ
大刀が地面に激突し、土煙が舞い上がる。
「……危なかった」
転がりながらギリギリ村の結界の内側に入ったネドリは、泥だらけだ。
ガン、ガンガンッ
結界を叩く変異種のオーガにつられて、ゴブリンやコボルト、オークが村の周囲に集まってくる。幸いなことに、石壁を越えて梅ノ木の枝が広がっているおかげなのか、まだ壁を破壊されるところまで至っていない。
村の中央にあるネドリの屋敷の大広間には、ケガ人たちが集められている。
室内は骨折や噛み傷や切り傷など、怪我をしている者たちで溢れ、あちこちでうめき声があがる。
「オババ、薬は足りるか」
「……厳しいのぉ」
「五月様から頂いたボルダの苗は」
「さすがに、まだ実は生らんぞ」
「だよな」
残った村人たちも、魔物たちのあげる咆哮や攻撃の音から逃れるように、ネドリの屋敷へと逃げ込んできている。
「……いつまで結界が持つのだろうか」
屋敷の2階へあがり、窓から村の外へと目を向ける。周囲は魔物で溢れているが、南東の王都方面と、南西のコントリア王国方面へと流れていっているのはわかる。
その先を、馬車が走っているはず。
「無事に、辿り着いてくれ」
ネドリの悲痛な祈りが、赤黒く染まる夕焼けの中に吸い込まれていった。
* * * * *
眼下に広がる森には、あちこちで魔物の咆哮が響いている。
『まったく。下品な咆哮を上げて騒々しい』
不機嫌そうな声のエイデン。
五月の元を飛び立ち、目立たないよう姿を消しながら飛ぶこと3時間。エイデンは、ネドリの村周辺に目を向ける。
『おお。さすが五月。結界は無事だな』
エイデンの目には、森の隙間から、薄っすらと虹色に光る結界が見えている。
『ふむ、生存者は思っていたよりもいるな……しかし、なんなんだ、こいつらは』
すでに魔物たちの多くが、森を抜け、街のある方へと流れて行っているにも関わらず、なぜか一部の魔物が村の周辺に密集している。その多くがトロールで、魔術の使えない獣人たちでは討伐は不可能に近いだろう。
とにかく、この魔物を排除しなければ、村人たちはここから離れられない。
『ネドリ! いるか!』
ネドリの名を呼びながら、隠していた古龍の姿を現したエイデン。
その途端、魔物たちの咆哮は止まる。エイデンから溢れる存在感に圧倒されて、ガタガタと震えだした。
『ネドリ!』
「は、はいっ」
屋敷から転がり出てきたのは、窶れはてたネドリ。
五月の結界のお陰か、エイデンの圧はそれほど感じない。
『これからこいつらを排除する。その間、けして家から出て来ないよう、中の連中に言っておけ』
「は、はいっ」
ネドリはエイデンの物騒な目の輝きに、血の気の引く思いで、屋敷の中に駆け戻る。
「助かった……のか?」
これから何が起こるのか、想像もしたくないネドリは、屋敷に集まった村人たちの元へと向かうのだった。





