<ビャクヤ>
エイデンの飛影は、あっという間に消えてしまった。しかし、向かう先はスノーがわかっている。
一度、日が沈み、もう一度日が沈もうとするところで、複数台のボロボロな馬車が、荒野の中をゆっくりと進んでいるのが見えてきた。
『ん? この匂いは』
『テオたちだ!』
ビャクヤが覚えのある匂いに反応したと同時に、ハクが猛ダッシュで馬車へと駆けていく。
「な、なんだ!?」
「ホワイトウルフだ!」
「た、戦えるものは迎え撃て!」
疲れ果ててもなお、戦意を無くしていない獣人たちが、それぞれの武器を手に馬車から飛び降りた。
『テオ、テオ、無事か?』
ハクが尻尾を振りながら、馬車の周りを駆けまわるが、大人の獣人たちの武器が邪魔で近寄れない。他のホワイトウルフたちも、少し距離をおきながら、ぐるぐると歩きながら様子を見ている。
「ほわいとうるふ?」
小さな子供の声が聞こえる。
『おお、マルか! マル、出てこい!』
『こら、ハク、落ち着け!』
『ふべっ!?』
ビャクヤに頭を押さえつけられるハク。その様子に、獣人たちも不審に思ったのか、武器が少しだけ下がる。
『うむ、言葉が通じんから仕方がないか。お前たち、私の後ろに並んで集まれ』
馬車の周りをうろついていたホワイトウルフたちが、一気にビャクヤの後ろに集まる。
「なんだ……あいつら、襲ってこない?」
「おろして、おろして!」
「こら、マルッ!」
「いてっ! あ、あー! やっぱり! びゃくやー!」
勢いよく飛び降りたマル。着地に失敗して、膝をうつも、すぐにビャクヤに気付いて駆け寄った。
「びゃくやー、むかえにきてくれたのー?」
『そうだな。テオもマルも無事なようで、よかった』
ぺろぺろと顔を舐めていると、今度はテオも飛び降りてきて、ハクに抱きついている。
ホワイトウルフに襲われると緊張していた大人たちは、安心してしゃがみこんでしまった。
『しかし、これで獣人全てではあるまい……それに、ガズゥの父親はいないようだな』
「びゃくや、これからいっしょ?」
『いや、エイデン様の後を追わねばな……よし、半分はこの馬車の警護しながら、一度、村まで戻れ。残りの者は私に続けっ!』
「え、びゃくや、行っちゃうの?」
泣きそうなマルの顔をぺろりと舐めると、ビャクヤたちは再び、獣人の村に向けて走り出した。
* * * * *
後に残った獣人たち。
なんとか無事に村から脱出したまではよかったが、途中、何度かゴブリンの集団に攻撃を受けてしまった。
狂ったように荒れていたトロールに追い立てられて、見境なく襲ってきたゴブリン。単独だったら狼獣人になど攻撃せずに逃げるくらいなのに、集団になった途端、襲ってくる。
断続的に攻撃が続く中、なんとか振り切って荒野を進んでいるときに、今度はホワイトウルフたちの集団に遭遇したのだ。
半分は諦め、半分は悪あがきのために馬車から飛び降りた彼らだったのだが。
「びゃくやー、むかえにきてくれたのー?」
マルの暢気な声と、友好的なホワイトウルフたちの姿に力が抜けた。
そういえば、テオとマルがホワイトウルフのことを言っていたな、と思い出したのは、彼らの半分が村のある方角へと走り去っていってからだった。





