第254話 自分にできることは
ぐるぐる考えている間にも、時間は過ぎていくわけで。
「五月様! 俺、村に行くっ!」
ガズゥが必死な顔で私に縋りついてきた。
「え、いや、ダメでしょ!?」
「でも、皆を助けに行かなきゃ」
「いやいやいや、ガズゥ、あの子らよりも力があるの?」
疲れ果てて立ち上がれない獣人の子らに目を向ける。見るからに無理して来たのがわかるくらい、ボロボロだ。一番若そうな子は、ガズゥよりも少し年上くらいだろうか。年長の子でも十代後半、まだ身体が細い感じの子ばかりだ。
大人たちが必死に逃がしたであろう子供たち、ということか。
……その中には、テオとマルの姿はない。
「でもっ!」
「ドンドンさんが、わざわざ彼らを逃がしたことを考えて」
「……」
悔しそうな顔のガズゥ。飛び出したい気持ちを堪えてるのか、握りこぶしが震えている。
私だって、何かできるんだったら、とは思うものの、ただの一般ピープルだし、まともに狩りすらやったこともない。そんなのが行っても、足手まといになるのはわかりきってる。
最初に思い浮かんだのは……エイデンだった。
古龍の彼だったら、皆を助けてくれるんじゃないか、と。
しかし、今日はまだ会っていないから、もしかしたら、いつものように木材をトりにいっているのかもしれない。
次に頼れるのは。
「ビャクヤッ!」
私は山に向かって、大きな声で名前を呼んだ。
「ハク! ユキ! スノー!」
私の呼び声が山の中に吸い込まれる。
しばらくすると、山から大きな白い影が飛んできた。
『五月様、どうしましたか』
ビャクヤが真っ先に現れた。その後を追うように、ハクたちも現れた。その姿にホッとする。ビャクヤは、チラリと獣人たちへと視線を向ける。大柄なホワイトウルフがいきなり現れたせいで、獣人たちは固まってしまっている。
「お願いがあるの」
『五月様のご下命であれば』
「ご下命って……あのね、ガズゥたちの村の人達を助けて欲しいの」
『ふむ』
再び獣人たちの方へと、厳しい目を向けるビャクヤ。
「村には、テオとマルもいるはずなの」
その言葉で、テオとマルを可愛がっていたビャクヤたちの目つきが変わる。
『わかりました……スノーは一度行ってるな。お前が先行しなさい。ユキは、残って五月様をお守りしなさい』
「ありがとう、ビャクヤ」
たぶん、私たちの会話で察したのだろう。なんとか涙を流さないようにと頑張っていたガズゥの頬に、涙がポロリと零れる。ユキがペロリと舐めた途端、ポロポロと涙がこぼれていく。
――私に出来ること。何かない?
「……私も、途中までは迎えに行く」
『五月様!』
「魔物とか盗賊とか、相手になんかできないのはわかってるから! せめて、途中まで軽トラで迎えに行くわ」
『危険です!』
いつも穏やかなビャクヤが怒った。
迫力が違うっ! さすがに私も怖かった!
でも、でも、でも!
『ビャクヤ!』
ズドーンッという爆音とともに、響いたのはエイデンの声。
空地には土埃と大量の木材。見上げると、大きな古龍の姿のエイデンが飛んでいた。
『エ、エイデン様……』
『貴様、五月に何をした』
怖い、怖い、怖い!
ビャクヤが怒ったのよりも、もっと怖いって!
「エ、エイデン!」
『五月、無事か』
「私は大丈夫なの、でも、獣人の村が!」
それだけでエイデンは察したのか、どこか遠くを見る目に変わる。
『ビャクヤ、ついてこい』
『はっ!』
エイデンが空高く上がると、迷いなく真っすぐに北の方へと飛んでいく
アオォォォォーン
ビャクヤの遠吠えとともに、どこに隠れていたのかわからないくらい、多くのホワイトウルフたちがわらわらと現れた。
『五月様、無謀なことはしないでくださいね』
それだけを言うと、ビャクヤたちはエイデンを追いかけて走っていく。
――本当に私はここで待っているだけでいいの?
「五月様、申し訳ございません」
ラルルの言葉に、ハッとする。疲れ果てた獣人たちのことを忘れていた。
「ごめん、ラルル、まずは彼らに食事を用意しなくちゃね」
今はまず、彼らの面倒をみなくては。
――私が行くのは、それからだ。
私は『収納』から、彼らが口にしてもよさそうなものがないか、探し始めるのであった。





